本の紹介『教育以前 あいりん小中学校物語』(1979)

『教育以前 あいりん小中学校物語』小柳伸顕(のぶあき)著(田畑書店 1978)
「教師の友」1979年3月号(日本基督教団出版部局)「読書室」欄掲載 p.40-41

(神戸教会牧師1年目、健作さん45歳)

 「小柳さん、釜ではなァー、人の過去は聞かないことがジンギやで」「過去を話したら、あんたほんとに責任もってくれるか」。

 そう居直られればほんとうには責任を持てる人はいないだろう。しかし、現にその過去の結果、この世に生まれながら戸籍すら作ってもらえず、極度の貧困、劣悪な生活環境、不就学や長欠にさらされている子供たちがいる。これは、こんな子たちと著者との出会いの本である。

 大阪は釜ヶ崎、市立あいりん小中学校というめずらしい学校の非常勤嘱託のカウンセラーを続ける小柳さんの話には、暗くて重い現実、例えば日雇い労働者の父子家庭の子の不就学問題などがいっぱいある。しかし、そこには不思議な明るさをもった朝子のことや、7年分を2年で勉強した頑張り屋の藤尾君の話、11年も経ってから求められた出生証明が、当時山の飯場に駆けつけた助産婦さんや村人の人情の中で作られていく幸ちゃんの話などがあり、思わず目がしらがにじむ。

 子供を救え、という基本線を形づくってきたのは、行政では福祉の分野の人たち、そして民間の有志、労働者や地域の人たちの力であり、教育行政そのものが差別や貧困に放り出されている現実にいかに弱いか、という著者の批判がこの本の底を流れている。教育が絶えず自らを問われる視座であるべき「教育以前」を鮮やかにしている。

 内容。「物語その1 入学相談」。訪ねることの大事さを教えられる。「物語その2 就籍」。籍のない子の現実に驚かされる。特に朝鮮人帰化の厳しさを知らされる。「物語その3 転校」。あいりん学校を偏見でしか見られない一般校の目は、即我々の目に重ならないだろうか。「物語その4 あいりん小中学校小史」。教育以前を支えるたくさんの人たちを知らされる。心に残ったこと。128ページの手紙文は美しい。小柳さんを生み出した関西労働者伝道委員会の人たちを想った。CS教師の人たちの心の幅を広げる本としておすすめしたい。

(岩井健作)


BOX-2. 個人所蔵史料(書籍等)

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