引用「心の温まる交わりを通して 座談会:在日大韓基督教会との宣教協約をめぐって②」(1984)

1984年1月21日「教団新報」記事

(神戸教会牧師 健作さん50歳)

− 日本基督教団及び在日大韓基督教会(以下 在日大韓教会)の両総会で「協約」が可決され、2月8日に在日大韓大阪教会で調印式がなされることになりました。そこで今回は「協約」をどう受けとめ、今度どう肉づけしていくかという点について、教会との「協約」であるということを念頭にして語り合っていただきたい。まず辻先生から「協約」草案作成過程で、教団として特に念頭に置いた点について、語って下さい。

辻:教団の側は、「協約」の前文作成に特に時間をかけました。第一次草案では「序」の部分がありませんでしたが、第二次草案では過去の教団の行為に対する反省として、これを入れました。この内容は、①在日朝鮮基督教会が旧日基に合併する際、教師に再試験を課し、日本語の使用を強要した、②戦後在日大韓教会が教団を離脱する際、非常に丁重な挨拶文が来ているにもかかわらず、教団は何らコメントしなかった、③韓国三教会とは「協約」を結びながら、その仲立ちをしてくれた足もとの在日大韓教会とは「協約」なしで来た、というもので、この三点に対する反省が教団の側としては基本にあります。

− 岩井先生は教団総会での論議、及び「協約」締結について、どうお考えですか。

岩井:私は教団側の根にあるのは「戦責告白」だと思うのです。戦争中、教団は様々な形で戦争協力をした。このことはどうしてもけじめをつけていかねばというのが、教団の若手の世代には強いと思うのです。「戦責告白」には教団の中にも相当な反発がある。その反発の論理は要するに「戦争に協力したから反省しようというのは倫理の問題であって、信仰の問題ではない。原罪についてはキリストの赦しがあるし、教会は主のからだであって、信仰告白と同等に誤りを告白すべきものではない」というもので、それが教団総会でも「なぜ過去のことを誤ちとして告白し、責任を負わねばならないのか」という発言となって現れていた。だから「協約」をどう受けとめるかという問題の根には、一方で「戦責告白」をどう受けとめるかという未決着の問題がある。同時に「戦責告白」はアジアに対して行った罪については告白したが、同じ仲間であるホーリネスの群れの教師籍を剥奪したことや、沖縄や在日大韓教会のことが視野に入っていなかったことが明らかになってきた。つまり「戦責告白」は足元を見ない観念的な告白であったと指摘されて、今更の如くそれを受けとめ直さざるを得ない面がある。だからそれを地に足がついたものとしていこうという動きが最近の教団の姿勢として出てきており、「協約」もその一つだと思うのです。

− 在日大韓教会では一部修正の上で「協約」が可決されたわけですが、総会の論議の内容を少し聞かせて下さい。

金:まず「協約」が遅すぎたというのが、一般的でしたね。同時に「募金」をめぐる論議では「今後も我々は独立してやっていくのだから、そんなものをもらう必要はない」という意見もかなりあると感じました。

辻:総会に出席させて頂き、もっと厳しい意見が出ると思っていたのですが、相当おさえて論議がなされているというように感じたのですが…。

金:我々の民族は昔から平和的な民族でしてね(笑)。植民地化されてきた長い歴史があって、言いたくても言わないことが多い。先ほど教団離脱にあたって丁重な挨拶文をもらったと言われたが、それを額面通りに受け取られると、本当は困るんですよ。本当は言いたいことは山ほどあったが、当時の状況ではそれが言えなかったというのが本当のところです。そういう声を謙虚に聞いていく必要があると思いました。

辻:我々は日本の官憲よりも、日本基督教団の方から、ずっと冷たい仕打ちを受けた、という証言も総会では聞かれましたが。

洪:その人は京都教会の長老で、生き証人のような人です。それで議場はシュンとしてしまってね。私は率直に言って、このことは徹底的に悔い改めてもらわないと、新しい出発は難しいと思います。「協約」は文章にしかすぎませんが、それを肉付けしていくには、我々がどんな気持ちで暮らしてきたかを知ってもらうことも大切だと思います。それには本がすでに何冊か出ているので、ぜひ読んでもらいたいですね。また今後の交わりを通して、それらの話は直接聞くことも出来ますから、そういう時は本当に心を開いて耳を傾けて頂きたいと思います。


洪:私は「協約」の話が出てきた頃、日本人は反省だとか過去の誤ちとか口先ではいろいろ言うが、実際には何もしようとしないし、現に何もしてこなかったではないかと「協約」には反対でした。特に本国の三教会と「協約」を教団が結んだ時も、それ見たことかという気持ちがありました。今更何も聞きたくないという気持ちの残っている人も多いしね。でも時が経ち、世代が変わってきて、「過去は過去であり、これからどうするかが大切なのだから、もっと前向きにやっていこう」という考えも多くなった。我々の世代でこれをちゃんと押さえていかないと、取り返しのつかないことになるかもしれないとも考える。教団も総会で論議し、大多数で「協約」を可決し、宣教協力の一環としての募金のことも可決した。それらを聞いて、これは口先だけでなく、本気だなということで、我々も考えを変え、過去のことはあまり触れないようになったのです。

 我々は、思ったことは何でもすぐに言ってしまうし、それで喧嘩になったりするが、その後は子供みたいに仲良くなる。それで相手がなぜ怒っているかもわかるからね。日本人は言わんでしょう。そしてギューと睨み続けてね。腹の中で何を考えているのかわからない。その怖さね(笑)。そういうのがあるので、我々も慎重にならざるを得なかったが、これからは相手の人格の見当もついたしね。

金:「協約」は締結してしまえばこれで終わりというのではなくて、これがスタートなのだという気持ちはみんな持っている。総会ではもう一つ、どうして「協約」と募金が絡んでいるのかというのがあって、こちらからお金を要求したのかということも聞かれました。

辻:これははっきりさせたいが、教団としては「協約」と「宣教協力の具体化」は別の議案であり、別々に決めたんです。「宣教協力の具体化」では、募金をめぐって5〜6の修正案が出され、相当な論議をし、一つ一つ採決をし、その後で大多数の賛成で募金のことを決めたわけです。だから、これは教団総会が論議を尽くして、主体性をもって決断したことだということは、皆さんに理解してもらいたいと思うのです。

洪:兵庫教区の教師研修会のとき「三億円の使い道について、具体的な青写真があるなら見せてほしい」という意見がありました。青写真はあるが、見せる気はないと私はその時に言ったのです。教団が「こういう枠で協力しよう」と言ってこられれば、では我々はその使い道を考えようということであってね。

岩井:両教会の関係をどう創り出していくかは、本質的なことと具体的なこととが絡み合い、錯綜しながらいくのが現実だと思うし、これまでの経過もそうであったと思う。だから憶測や誤解が出てくるのは避けられないが、でもそれはどうしても過程で負わねばならない問題であると思う。教団の側で言えば、教義的に正しい信仰を持ちながらなぜ隣人を切り捨てて気がつかなかったような信仰理解になってしまったのかという点の反省が大切だと思う。日本の教会の場合、神の前で義とされ、かけがえのない一人の人間として立つという義認論が、内面的なこととしてのみ理解され、具体的な社会や経済や法律や歴史の中でもつ意味と力について、深められなかったことへの反省です。近代市民社会の形成の中で、プラスに作用した面は確かにありますが、他方近代国会の持つ悪しき面に対して、人権の意識を手がかりにして抵抗していくということが教会の主流では十分に展開しなかったと思うのですが、それは何故かという面について、本当にしっかりした展開が必要だと思います。強制連行されてくる朝鮮人を見て、同情ということでは目に映ったでしょうが、それを人権の問題として見つめるだけの信仰の質に欠けていたのではないでしょうか。織田楢次先生(1908-1980)のような人は本当に少数であった。この辺をよほど反省しないと「協約」の本質問題は深まらないと思う。私は「協約」の質が深まらなくて、再び見直しをするというようなことがないよう、これを掘り下げることが今の教団の課題だと思います。それが真剣になされれば、募金は自然に集まるだろうし、また募金を進めることによって今言った議論も深められねばならないと思います。

辻:今回の募金は教団では最大規模のものなんです。これまでで最も大きかったのは「沖縄教区牧師館・会堂」再建の6年間600万円ずつの計3600万円の募金でした。今回は毎年1千万で10年の計1億円ということですから、それだけの募金を集めていくには、やはり内容が伴わないと無理だと思うのです。だから教団の1600余の教会が募金を手がかりとして問題を考えていくということでは、教団の側として大きな意味を持つと思うのです。

洪:この「協約」が締結されることによって、我々はこれまでの誤解や感情を水に流すことが出来る、そういうことでは大いに評価できます。年配の人も、やっとこれでわかった、と言っていました。我々の側も相手をあまり非難ばかりしていたということで反省し、やはり互いにクリスチャンだから、明るくやっていこうという空気が出来てくると思います。これは私自身がそうでしたから。これまで苦しんでいたことが、癒やされ、変えられる。またこれは子孫の代まで残るものですからね。そういうものが締結されるのは、本当に喜ばしいことだと思います。


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