剣をさやに(2001 9.11・神戸教会・教会会報)

神戸教會々報 No.163 所収、2001.9.30

(2001.9.11 NY同時テロから2週間、健作さん68歳、退任の半年前)

イエスは言われた「剣をさやに納めなさい」”(マタイ26:52)

”そこで、イエスは言われた。「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆、剣で滅びる。”(マタイ 26:52、新共同訳)


 ダグラス・マッカーサーさん。如何お過ごしですか。

 あなたに神戸教会の夏期集会でお話をして戴いたのは、1979年だからもう23年前ですね。


集会パンフレット
・説教「神の苦しみにあずかる
集会報告
・教会報「宣教の将来


 お互いに随分歳をとったと思います。

 米軍岩国基地の兵士への牧会の仕事を一緒にした日々のことを懐かしく思い出しています。

(サイト補足:連合国軍最高司令官と同姓同名の教団来日宣教師。ベトナム戦争時、彼は岩国の在日米軍基地のある街「カワシモ」で軍隊内での黒人兵差別をはじめ地域社会での差別の中に身をおき、その視点から日本の社会の現実を見た)


 あなたは日本から帰って、ニューヨークのユニオン神学校で、黒人神学者ジェームズ・コーン(James H. CONE)の許で勉強をしたいと言っていましたから、もしかしたらその後どこかで牧会に携わっているのかもしれませんね。いずれにしろ、差別や人権の問題に取り組んでいることには違いないと思っています。


 9月11日の同時多発テロ事件について、あなたが学んだユニオン神学校のトム・F・ドライバー名誉教授の、心に沁みる「呼びかけ」を、私の出身神学校・同志社の深田未来生教授を通して拝見しました。

 そのメッセージは、まず第1に、生きている者、命を失った者、負傷した者、恐れと混乱にある者の深い思いを一つに繋げて、悲しみにある人々が癒され、命を失った人々が永遠の命を与えられるようにと祈っていることを告げています。

 第2に、報復の危険を訴えています。


”危機は(襲われるかもしれないことの防御の不足にあるのではなく:岩井注)報復、応報、戦争そして破壊的武器が物事を解決するという信念の蔓延に(こそ)あります。……(破壊)それは今回の事件の《攻撃者》の依って立つ信念なのです。”(トム・F・ドライバー)


 第3に、アメリカへの認識です。アメリカは世界最大の武器輸出国であること。世界の貧困の上に成り立っている、著しい消費生活を当たり前のこととしてきたこと。今回命を失った人々より著しく多くの人々が毎月栄養不良で死亡していること。世界の人々のアメリカに対する反感と妬みの高まりに気がついていないこと、を訴えています。

 第4は、「剣を取る者はみな剣で滅びる」(マタイ26:52)とのイエスの言葉に従って、悔い改め、生き方を変えて、平和の主がもたらす光と愛に向けて祈ろうではありませんか、という呼びかけです。

 事件からごく早い時期に、マスメディアがアメリカ政府一極の軍事報復だけをこれでもかこれでもかと流している時に、このメッセージが送られてきたことは大きな慰めでした。


 その後、ニューヨークタイムズに投稿された、ある夫妻の手紙の写しが送られてきました。

 彼らは、息子グレッグがあのビル(ワールド・トレード・センター)で行方不明なのです。

 多くの人々と悲嘆を慰めあっていることがまず知らされ、国家の復讐は、遠い国の息子・娘・友人を死なせ、苦しめ、自分たちの悲しみを更に深めることになると訴えています。

 そして、自分たちの息子は、非人間的なイデオロギーの犠牲になって死んだけれども、武力報復がその死の痛みを和らげてくれはしないと述べています。

 テロに対して、平和的・理性的に解決策を作り出すことが大統領の役割です。

 この時代の非人間性を更に増大する国になってはいけない、と上に立つ人を諫めています。



 私は、ナショナリズム一色のアメリカにもこのような声があることを知り、大変力づけられました。

 ダグラスさん、あなたがそのような声の流れの中で、苦闘しておられることを想像しています。

 かつて、M.L.キング牧師は「汝の敵を愛せよ」と説教をしました(1963)。あなたもその精神的遺産を受け継ぎ、人種差別を黒人の側から闘い、克服しようとする器です。

 病めるアメリカの癒しのために、世界の和らぎのために、強く立ってください。

 今、私は4つの祈りをしています。

 ① 死者と傷ついた人々のために。
 ② アメリカが武力行使ではない、解決策に忍耐を持って方向転換するように。
 ③ 日本政府がアメリカ政府の追従ではない独自の平和解決に向かう努力をするように。
 ④ アフガンの難民・子供・老人の命と生活が守られるように。


 話は変わりますが、この夏、私は、長野県上田に第二次大戦後50年近く経って建てられた「戦没画学生慰霊美術館」を訪ねました。「無言館」といいます。

 一人一人の画学生が、どんな思いであの日本の侵略戦争の犠牲になり、また関わったか、それが50年間、悲しく疼く物語を秘めてきたかを切々と感じさせる美術館です。


 戦争とは、権力者にはわからない闇を持っています。

 あなたはアメリカで、そして私は日本で、武力や戦争を自己の生活防衛に安全と称して使う人々に、抗っていこうではありませんか。

 生かされている限り、なすべきことは小さいことを含めて、次々とあります。

 「剣をさやに納めなさい。剣を取る者は皆剣で滅びる」(マタイ 26:52)。

 たとえ剣を抜いてしまったとしても、さやに納めるに、時はまだ遅くありません。