1971年12月1日「働く人」座談会記事、日本基督教団伝道委員会発行
(岩国教会牧師6年、健作さん38歳)
11月16日、国会の沖縄返還協定特別委員会で社会党の楢崎弥之助氏が「米国岩国基地に核兵器が貯蔵されている疑いがある」と発表して以来、現地岩国での動きを中心にこれまで基地闘争をしてきた岩井健作氏と田口重彦氏の二人に話し合っていただきました。
敏感な基地、鈍感な岩国市長
一番早く敏感な反応を示したのは基地当局でしょうね。
◇ これは19日の革新代表と岩国市長との会見の席上で社会党のY氏から得たニュースですが、17日未明午前1時半頃から大型トレーラー3台で6個の物体を該当の弾薬庫から運び出し、午前4時頃までに大型輸送機で基地から持ち出したという情報を得ているとのことです。また、昨年来反戦活動を行ってきたGIたちに対する弾圧が18日から19日にかけて起こっています。本国送還2名、逮捕者4名と聞いています。しかも、逮捕理由は10月3日に行ったロックフェスティバルの後、錦帯橋上に座り込んだことだそうです。なぜこんなに基地当局が敏感に動いているかを考えてみると、基地内の情報が外に流れる根を止めるためだと考えざるを得ません。私としては、このことから見ても、核兵器に対して基地が開かれているというのは本当だと思わざるを得ません。
それにしても日本の警察の動きも敏感でしたね。
◇ 私はあれから4度ほど現地へ行ってみましたが、あのひと気のない所にパトカーが2台も詰めており、自動車を止めて検問したり、通行人を尋問したり、望遠カメラで写したりしてました。
◇ 抗議行動としては、広島、山口の被爆者が素早く行動を起こしました。被団協(日本原水爆被害者団体協議会)や労組およびキリスト者が、まず岩国市長への会見を行い、現地市長として核兵器の有無を基地司令官にどこまでもただすよう要求しました。もともと中央依存の基地関係の補助金と交付金を当てにした政治しかやっていない市長に、にべもなくいなされた形でした。続いて私たちのグループが基地司令官への会見を申し入れましたが、横須賀の司令部の司令で会見が拒否されました。
そのほかの現地の様子で気のついたことは?
"核は危険"意識で低迷する市民
◇ 一般市民の反応は「まさかと思っていたが、噂は本当だったか」という感じがかなりあったのではないでしょうか。今年になってから基地周辺等の整備に関する法律によって、6億円に近い防衛庁からのお金が市の諸施設建設整備に出されています。市民の一般的動向は基地の既成事実に慣らされていると言えるでしょう。そのためかショックを受けながらも、反応がないのが現状だと思います。こういう中で、岩国基地の核の存在をどのようなレベルで捉えていくかが重要なことではないでしょうか。
◇ まず第一に、市民は"危険"という形で捉えているのではないでしょうか。16日以降、市役所に「事実かどうか確認せよ」という電話がひっきりなしにかかったそうですが、市民としての素朴な感情を表していると思います。この感情は大切ですが、現場にいると慣らされてしまうので、戦いのエネルギーを不安な気持ちを持ち続けることで蓄えていくのは、なかなか難しいのではないでしょうか。もっとも市民生活に実感が起こるようなことになれば別ですが。
◇ その点、被爆者を中心とした"反発"には鋭いものがあります。市長会見の席上でも、非核3原則を盾に、国是としての核否定を現地岩国市長は米軍に強く訴えるべきだとの要求が出されました。もう一つ、これはエピソードの類ですが、広島に支局を持つ新聞は大阪の本社に属しているので、今まで岩国の問題は直接取材ができなかったわけですが、こと核に関してということで、大阪と西部との両本社間で話し合いがついて、広島の記者が連日取材に当たっているということは、核問題の重要さを思わせました。
◇ しかし国会での楢崎氏の追及は、核ぬき本土並みをうたった"沖縄返還協定"の欺瞞性を明らかにし、その基礎を根本から突くものだったわけです。またそれだからこそ強行採決を行なって、この事実を隠さざるを得なかったし、米軍側も敏速に反応せざるを得なかったと思います。ですから、これを単に市民の"危険"という点からだけで捉えるのは不十分です。また非核3原則の堅持という点からだけで捉えるのも十分とは言えないと思います。
というとつまり、沖縄の人たちが、米軍の極東戦略体制下に置かれた中で進めてきたさまざまな戦いと同じレベルでこの問題を捉えねばならないということでしょうか。
沖縄と本土を結ぶもの:基地
◇ 岩国と沖縄とは色々な面でつながりがあると思います。例えば、岩国商工会議所は代表を沖縄に送って、基地に依存している沖縄の経済のあり方を学んできています。こういう面から見れば、沖縄のレベルでものを考えることが、悪い意味で私たちの日常生活の中に入り込んできているのではないでしょうか。今までは、あたかも沖縄と本土とは違うのだと考えていた私たちに、沖縄の問題は私たち自身の問題だということを、まざまざと突きつけたのが今度の問題です。そしてベトナムを中心にしたアジアへの侵略に私たちは巻き込まれているということが、いよいよはっきりしてきたわけです。
◇ そういう意味では、今度の核の問題を単なる被害者意識の面から捉えるのではなくて、核の加害者の陣内に私たちが引き摺り込まれている問題として捉えねばならないと思います。そして、それぞれの運動がそれぞれの持っている固有な領域を持ち堪えながら、底面で関連しあっていることの認識を深めなければいけないのではないでしょうか。
◇ 岩国の今までの私たちの行動も底辺をつなぐという意味の働きが多かったわけですが、また逆にキリスト者独自の行動としては弱いといわれるかもしれません。
◇ それにしても、今度の事件で"イワクニ5"(良心的兵役拒否者”CO”を支援する5人の牧師)が支援してきたD兵士のCO申請が突如却下され本国送還されたこと(CO申請中は法的には移送できない)には強い憤りを覚えざるを得ません。しかし、一度戦争を遂行させる権力の非情さに目覚めた者は、どこにいてもきっと戦わざるを得ないでしょう。

