脱原発への祈り(2011 祈祷・新生会)

2011.7.20 発行『新生』第34号・夏号 所収

(明治学院教会牧師、健作さん77歳)

 主イエスの父なる神様

 ひと時も心が晴れる事なく、重い憂いとして東日本大震災の惨状と被災者の現状が私たちの日常を覆っています。

 激震と大津波で命を奪われた、肉親・友人・親しい関係者を想って悲嘆のどん底にある人たちに神御自身が寄り添って慰めをお与え下さい。家屋・財産・仕事など生活基盤の一切を奪われて絶望のうちにある人たちに慰めをお与え下さい。過酷な避難生活を強いられている人たちに、仲間と共に困難を担い合い励まし合って、現状を打開してゆく力をお与え下さい。未曾有の原発事故で故郷の山河の里の生活の一切を断ち切られ、先行きの見えない棄民・難民の生活を日々強いられている人たちに、苦難を訴え、事故の根源的問題に対峙しつつ、生き抜いてゆく力をお与え下さい。被災格差の中、先駆けて家業・企業・産業・地域の再起、復興に立ち上がっている人たちに知恵と気力をお与えください。

 私たちは、原発について、その危険とそれを推進する構造的力に如何に無知であったかを自覚し、今更の如く懺悔いたします。事故を必然ならしめたこの国の利益追及の原子力エネルギー政策を容認し、特に首都圏で電力を何の自覚もなく消費してきた私たちは、東北の過疎地被災地域とその被害者への加害責任を負っていることを覚えます。原発について余りにも無知であった事を懺悔します。原子力基本法の原子力の推進を空気のように当然のこととして、原発について政府・電力会社・関連企業、そこから膨大な宣伝費が出ているマスメディア、そして「御用学者」といわれる研究者のご託宣による「原発安全神話」に埋没して全く無批判であった事を、心から懺悔します。良心的な研究者やライターの人たちが、核廃棄物が人類には処理不可能で、それを前提としたエネルギー消費は、神と人間の生きるモラルに反するという事、安全な原発などというものは不可能である事にやっと気がつかされました。原発反対に情緒的には加わって来たといっても、本腰でなかった事を懺悔いたします。お赦しください。

 何の「罪」もないのに、我が家・我が街・我が仕事を追われて棄民とされたフクシマのあの地域の人達は、とめどもない無関心の犠牲者です。その犠牲の歴史には、ヒロシマ・ナガサキ・第五福竜丸の放射線被害の人たちがいます。チェルノブイリ原発事故の被害や劣化ウラン弾の放射線被害に苦しみ白血病で命を失っていくイラクの子どもたちがいます。これらの多くの人達の犠牲の上に私たちは、原子力エネルギーを推進する日常を生きて来ました。この人達は私たちの「贖罪」なのです。

 聖書ではパウロが「十字架につけられ給ひしままなるイエス・キリスト、汝らの眼前に顕されたるに、誰が汝らを誑(たぶら)かししぞ。」(ガラテヤ人への書 3:1、文語訳聖書)と言っています。

 イエスは今も「十字架につけられ給ひしまま」これらの人の傍らにおられることを深く覚えます。「十字架の死のイエス」からはほど遠いところにいる自分に気がついて「キリエ・エレイソン」(主よ、あわれみたまえ)と呼ばわります。

 神様、今、私の机の上には本が積まれています。高木仁三郎『原発事故はなぜくりかえすのか』(岩波新書)、田中三彦『原発はなぜ危険か』(岩波新書)、内橋克人『日本の原発、どこで間違えたのか』(朝日新聞社)、小出裕彰『隠された原子力・核の真実 − 原子力の専門家が原発に反対するわけ』(創史社)、瀬尾健『原発事故…その時、あなたは!』(風媒社)、肥田舜太郎・鎌仲ひとみ『内部被爆の脅威 − 原爆から劣化ウラン弾まで』(ちくま新書)、広瀬隆『福島原発メルトダウン』(朝日新書)、鎌田慧 『日本の原発危険地帯』(青志社)など。

 全部きちんと読んだ訳ではありませんが、原発は、景気を保つエネルギーの問題などではなくて、世界の人間の生存に関わる、命と共生の価値観の問題なのだということに気がつきました。原発で利益を得る巨大な勢力とその戦略に対する熾烈な闘いです。「脱原発」をどう闘うのか、知恵・連帯・気力をお与え下さい。運動ができる人は運動を、保育者・教育者は子どもを守ることを、老人ホームで静かに過ごしておられる方は祈ることを、それぞれの遣わされた場で励むことができるように、導きをお与え下さい。

 主イエスの御名によって祈ります。ア−メン。


社会福祉法人 新生会(群馬県高崎市、聖公会の運営する老人福祉施設)
毎号4000部発行している『新生』からの原稿依頼に応えて

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▶️ 発題要旨「原発事故を受け止めて」(2011 シンポジウム)
2011.10.13 社会福祉法人 新生会主催
「東日本大震災と原発事故」〜独日平和フォーラムとの対話〜

▶️ ドイツと小さな「脱原発」集会(2011 望楼 ㉖)