五旬節(ペンテコステ)(2009 小磯良平 ㉚)

2009.10.7、湘南とつかYMCA “やさしく学ぶ聖書の集い”
「洋画家 小磯良平の聖書のさし絵から聖書を学ぶ」㉚

(明治学院教会牧師、健作さん76歳、『聖書の風景 − 小磯良平の聖書挿絵』出版10年前)

使徒行伝(使徒言行録)2:1-13

1.小磯さんは使徒言行録の絵を3枚描いている。

「五旬節(ペンテコステ)」「ステファノ石で打たれる」「サウロの改心」。

 最近必要があって、使徒言行録を「新共同訳聖書」で二度通読してみた。この書物は「初期キリスト教発展の歴史」(広辞苑)なのだが、その大事なポイントを捉える点を挙げるなら、この3枚は実に良くその特徴を語っている。

 小磯さんが何故この3枚を選んだのか。だれかの示唆によったのか。謎であり、不思議でもある。ご生前に、お交わりできる立場にあったことを思えば、御聞きして置けば良かったとは、今にして思うことである。

2.小磯さんは、聖霊降臨の場面の今の完成図のために下図を2枚描いている。

 この2枚について小磯美術館の学芸員の辻智美さんは以下のような考察をしている。

「下図(図11,12)は、一見重なりそうであるが、重ならない。恐らく図12をイメージとして先に描き、そのイメージをもとにして、図11が描かれたのであろう。図11は、完成図とほぼ同じである。ここで注目したいのが、最初にイメージとして描かれたであろう図12の下絵である。それぞれの人物の頭上に何かが浮かんでいる。これは聖書の『また、舌のようなものが、炎のように別れて現れ、ひとりびとりの上にとどまった。』(使徒2:3)という記述にしたがって描かれた形態である。小磯の蔵書であった『名画に見るキリスト』(1969年 保育社発行)には、エル・グレコの同場面の絵画の図版が紹介されており(エル・グレコ[ペンテコステ]1596-1600 プラド美術館蔵)同様な形が人々の頭上に描かれている。小磯はこのグレコの作品を思い出していただろうか」(『図録』論文4枚目)。

 完成図には12人全員に聖霊が下っている。12人の人物の配置は絶妙である。

 右側の5人と正面の5人と左側に2人を置いているようでもあり、7人が円陣を描いているようでもある、後者の理解をすると円陣を外してその外側の5人を繋げているようでもあり、右下の一人を椅子から立たせて後ろに手を組ませている辺りの動きを絵に盛り込んでいる。

 二人ずつが組になって話をしているようだが、正面の一人はぽつんと瞑想しているようであるし、右から3人目の人も上を向いて思いにふけっているようでもある。

 右端後ろの一人は、対話を後ろから見守っているようでもある(下図ではこの人は両手をあげている)。いずれにせよ、集団でありつつ、ペアーでありつつ、独りであるという、多様な関係を生き生きとさせている。

 絵の光源は人の輪の真ん中にあるようである。聖霊の働きを「言葉」の働きとして記述した使徒言行録の著者の意図をよく表現した挿絵である。

 12人を描くのに、グループを縛る一様な形がなく、しかもそれでいてばらばらではない、という描き方は、テキストの本質をよく掴んでいる。

 このテキストの「一緒に集まっていると」という箇所と「ひとりびとりの上にとどまった」という「聖霊の働き」による、人間の共同性のありようを良く表現した絵であることに注目したい。

3.人間の共同性でもっとも「固定的安定」した組み方は、三角型であろう。上に強大な権力があり、その権力に服する形、あるいは支える形で人間関係が組まれてゆく場合である。この構成では決してその人間がその固有な尊厳として・個性として・生命として・相互に生かされた関係は表現できない。専制君主・独裁者・権力者・全体主義とまでゆかなくても、政治・経済・能力など力関係で組まれてゆく組織化は、時代を問わず、人間を人間として生かしはしない。

 そのような図柄を絵にすることはできる。

 しかし、個でありつつ・孤独でありつつ・なおそこに言葉のやり取りがあり、全体が一様でなく・なお緩やかな集団であるような、平等であり・対等であり・疎外がないような共同性というものがあるとすれば、それは、聖書では「神の霊」の働きによってもたらされる人間の繋がり、「共同性」というものであろう。

 図らずも小磯さんが描いた12人にはそんな雰囲気がある。

 図柄としてはそれは不定形の丸型の人間の繋がりになるであろう。

 そんな関係を小磯さんは描いている。画家のテキストの読みは正確である。

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洋画家・小磯良平の聖書のさし絵から聖書を学ぶ

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▶️ ステパノ石で打たれる(2009 小磯良平 ㉛)

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