「待望」 パウル・ティリッヒ

「待望」 ティリッヒ

このページは、説教からのスピンオフです。
関連「かくれた神 マルティン・ブーバー


(サイト記)震災後の受難節で、ブーバー、浅野順一に次いで第3週で引用されたパウル・ティリッヒ(Paul Tillich)。ティリッヒはユダヤ人ではないが、ヒトラー政権下での迫害によりドイツからアメリカに亡命、ユニオン神学校、ハーバード大学で教鞭を取った組織神学・宗教哲学者。


神を待つ(2)」から抜粋。

説教 於神戸教会 1995年3月19日
震災から61日目、受難節第3主日

 私の手元に、約50年前に出版された一つの説教集があります。説教の題名は『地の基ふるいうごく』というものです。パウル・ティリッヒ(Paul Tillich)という、アメリカの神学者の説教集です。第二次大戦のユダヤ人虐殺、広島・長崎原爆などを経験し、表向きの文化が死滅していく経験の中で語られた説教が題名になっています。
 その中に「待望」という説教があります。この説教では、二つのテキストが選ばれています。

詩篇130:5-7
 「われ主を待ち望む、わが霊はまち望む。…われはそのみことばによりてのぞみをいだく。わがたましいが主をまつは、衛士があしたを待つにまさり、誠に衛士があしたを待つに勝れり。」

ローマ人への手紙 8:24-25
 「我らは望みにより救われたり、眼に見ゆる望みは望みにあらず、人その見るところをいかで望まん。我もしその見ぬところを望まば、忍耐をして之を待たん。」

そして、この説教はこう書き始められています。

 「旧約聖書、新約聖書はともに、神との関係におけるわれわれの存在を、待つということとして述べている。詩篇においては切なる待望があり、使徒(パウロ)の場合には、忍耐強い待望がある。待つ、とは持たないが同時に持つことを意味する。なぜなら、われわれは、待望しているものを持っていない、あるいは使徒(パウロ)の言葉によれば、われらもしその見ぬところを望まば、これを待たん、である。人間の神に対する関係の状態は、何よりもまず、持たないこと、見ないこと、知らないこと、把握していないこと、である。このことが忘れられている宗教は、たといそれがどれほど恍惚的であり、活動的であり、合理的であっても、常に、自ら造り出した神の像を以て、神を置き換えるのである」。

 待つ、ということは、自己満足や自分のわかりきった理解の中に入り込まないことです。神を求め、神を所有しようと試みつつ、そこで分かったという新しい所有を誇らないことです。こうすればよい、というマニュアルを手にしていないということです。

 こんな大きな地震の被災地の只中にあると、マニュアルがないということをみんなが感じています。分からなくなることがたくさんあります。でもマニュアルがないことがいけないことではないのです。例えば、未曾有に多い避難者の問題がこれからどうすれば良いのか、不安です。先週いただいた、山手小学校の卒業式案内も場所未定とあります。新しい講堂は被災者の住居になっていて使えません。なんとか開けて欲しいという学校当局者と避難者との間の厳しいやり取りが目に付くようです。秩序、法、地震前の考え方(そのマニュアル)に立とうとする人と、被災の現実に立たざるを得ない人とのぶつかり合いは、ますます続きます。15年間大丈夫だという、ゴミ捨ての空間が、一年で無くなってしまうゴミ問題、下水処理場の破壊の問題を考えますと、私たちの街の中の目先だけ綺麗になったから良いとは言えません。ゴミを積み上げられた近くの人々が、その悪臭に悩み、どうしようもないと叫びをあげているのをニュースで聞くと、胸が締め付けられるようです。どれ一つ解決はありません。マニュアルがないのです。

 それぞれが良き解決を望みつつ、状況を切り開かねばなりません。「待つ」とは、解決を信じつつ生きることです。


エルサレム ヴィア・ドロローサ(苦難の道)より

1995.8

 このところ「神戸聖書展」に関わってきた。「死海写本」が展示の目玉だ。イスラエル政府は外貨が欲しいので、積極的に貸出をしているらしい。精巧な作品で、写真にはない迫力が、時間を超えて、古代の筆写の厳格で静謐な雰囲気が伝わってくる。硬い宗教性が漂う。
 他方、新聞の「イスラエル軍は、パレスチナ自治政府の『完全自治区』に侵攻、パレスチナ人20人が負傷、5歳の子供を含め二人が重症」が心に重く焼きつく。遠い国の文化と軍隊とが不協和音をたてて私の中に同居している。

 「宗教は文化の根底にあり、文化は宗教の表現である」(ティリッヒ)とは聞いたことはあるが、宗教は軍隊の根底にあり、軍隊は宗教の表現である、とは聞いたことがない。だが、現実はその方が真であるようだ。

 エルサレムの苦難の道(ヴィア・ドロローサ)は何処まで続くのであろうか。