主を恐れることは知恵の初め(2011 聖書の集い・箴言 ②)

主を畏れることは知恵の初め。(箴言 1:7、新共同訳)

2011.11.2「現代社会に生きる聖書の言葉」
湘南とつかYMCA ”やさしく学ぶ聖書の集い”

第24回「旧約聖書 箴言の言葉から」②
箴言 1:1-9

(明治学院教会牧師、健作さん78歳)

1.箴言の構成

 箴言は大きく区分すると五つの部分より構成されている。

 第一部:1章1節〜9章18節
 第二部:10章1節〜22章16節
 第三部:22章17節〜22章34節
 第四部:25章1節〜29節
 第五部:30章1節〜31章31節

 今日選んだ言葉「主を恐れることは知恵の初め」は、第一部のなかにある。

 第一部には「イスラエルの王、ダビデの子、ソロモンの箴言(1:1)」という表題がつけられている。この表題は、箴言全体につけられたものと解釈する立場もあるが、箴言の構成が多様な知恵の集大成であることを考えれば、この区分の表題と考えるのが妥当である。

「ソロモンの」は、一般化して「知恵的な」の意味を持つものである。希有な知恵はその王に帰せられた。ソロモンが際だって知恵において有名であったことにもよる。

 第一部は箴言のなかでも最も遅い時期に成立した。箴言全体を現在の姿にまとめたペルシャ時代(B.C.539 ペルシャ王クロスのバビロン征服以後)の編集者が、同時代の知恵の教師の教えを収録したものであろう。比較的長い勧告文や教訓詩で教えが示される。この中では、知恵が神学的に考察されることが多い。

2.箴言 1章2−6節

 本書の目的を示す句が繰り返される。2節。「知恵」一般的な賢さの意味だけではなく、職業上の技能の熟達とも関係している。「こつ」が分かるという玄人の賢さ。賢くなるためには、経験が必要だが、それが個人の経験にとどまらず、一定の社会集団の共有財産としての経験にまでなっているものが、ここに集められている。

「生活の座」は基本的には家族や部族が想定される。生活の中で経験知として伝えられる伝承形式が口頭で伝達されるには、簡単な格言風の言葉が好んでも用いられた。いずれの文化の民族でもそのような知恵が残っている。日本でも多くの諺はそのようにして伝えられてきた。「腹八分目に医者いらず」「怠け者の節句働き」「習うより慣れよ」など。

 旧約聖書にもたくさんある。「この母にしてこの娘あり」(エゼキエル 16:44)、「悪人は悪人からでる」(サム上 24:14)。箴言には10章以下にこのような諺が治められている。「諭し」「未熟な者」「若者」は、この書が、次世代への知恵の伝達・教育に関わる者であることが想像できる。

3.今日の箴言1章7節

 本書の編集者は、知恵の「初め」にイスラエルの神「ヤハウェ(主)」を畏れることを主張する。

 同様の命題は旧約には5回出てくる(箴言 9:10・15:33、詩編111:10、ヨブ記28:28)。また、箴言でも同様な言い方が以下の箇所にでてくる(2:5、8:13、10:27、14:26-27、15:16、15:33、19:23、22:4)。

 主を恐れることが、あらゆる正しい知識の獲得を可能にする前提であろうという意味である。「初め」は適切な翻訳ではないと研究者・勝村弘也氏はいう。正しい認識が開始され、それを持続することが、知識の内容をも規定する。文語訳は「本(もと)」である。「ヤハウェ(主)」が世界の創造者として、世界を統治しているという信仰が知識の在り方をを根本的に規定しているという意味であろう。

 そこには二つのことが意味されている。一つは「被造性」ということ、人間を絶対化できないという知恵。もう一つは「関係性」ということ。「畏れる」は、自己相対化の視座をどこで獲得するかという関係性の問題である。

「無知なもの(エヴィール)」は箴言に頻繁に登場するが、単に知恵の不足ではなくて、知恵が属する根本的秩序に無知であるという意味である。客観的に知識の量を持っていても「無知である者」が存在していたのであろう。

4.「主を畏れる」ことを、現代に生きている我々がどう把握し、それを実践化するか、それを「経験知」として、どのように学び、継承するかは、われわれが聖書をどう読むかとの課題である。

5.例えば

 原子力の専門家分野で「ご用学者」「市民科学者(故・高木仁三郎など)」という分け方がなされる。関係性の広がりで、一方は、ある階層の利益に仕え(酷いことに核兵器の開発を担い、現在もそれを使命としている)、一方は「市民」といわれる広範な人々の命の問題を考えて、そこの関係性を重視した。科学が単に客観的知識であることを超えた世界である。これは人間の営みのあらゆる分野でいえることであろう。

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