震災と神戸(1995 教会報・神戸教會々報 56)

1995年4月2日発行、神戸教會々報「阪神大震災 特別号」所収
▶️ 1995年4月2日 神戸教会週報
▶️ 説教:わたしが大地を据えたとき

(健作さん61歳、牧会37年、神戸教会牧師18年目)


 あの大震災から2ヶ月余りが過ぎました。

 被災の傷跡はなお深まりつつあります。

 被災から立ち上がろうとされている方々、そして被災地を心配して下さっている方々、すべての方々に改めて安否をお伺いいたします。

 天来の慰めと励ましが、谷間の岩肌に光る滴りの如く、絶え間なく注がれんことをお祈りいたします。


 阪神大震災は何であったのか。

 私たち一人一人はその問いの前にたじろぎます。

 それぞれ置かれた状況は異なります。

 死別、家屋崩壊、全焼、失職など痛手の厳しい方も、そこから問いかけられ、救援に心労する者も、第二次、第三次の影響に組み込まれている者も、それぞれに、この問いに応えることが、地震以後を生きることではないでしょうか。

 私なりに幾つかの課題をあげ、みなさまと共に考えてまいりたいと思います。


人の奢り、そして技術・経済万能の文明への警告

 地震は自然現象ですから、関東大震災の時に内村鑑三が「末日の模型」で語ったように宗教的意味を与えることは避けるべきだと思います。

 しかし、この出来事に人間を含めて被造物としてのたたずまいを受けとめることは、聖書の信仰への回帰でありましょう。

 1995年度の教会標語に、ヨブ記38章4節の「わたしが大地を据えたとき、お前はどこにいたのか」を選ばせていただきました。


街の再生と教会の回復

 戦後50年、日本基督教団は「戦争責任の実質化」と「地域に仕える」働きを目指してまいりました。

 このたびも、各教会は救援活動に熱心にとりくみました。

 教団としても、震災のごく初期に「民設公営方式・小さな町づくりとしての仮設住宅の建設提供」の考え方を打ち出し、募金と実践に取り組みました。これは現在の「仮設住宅法」による単一統制の災害時の住宅問題に新しい方向を見出すための象徴的な行動で、各方面から評価を受けつつ、遅ればせではありますが、自治会、障害者支援団体などを媒介として進行しています。

 このたびの地震の特徴は、都市機能の破壊でした。行政、交通、ライフライン(電気・水道・ガス)、環境(下水・ゴミ)、港湾、産業の中枢が被害を受けたため、街の復旧は長期戦です。

 従来、神戸は行政主導の都市経営が行われてきましたが、市民・住民が自らの主体となる街づくりへと転換して行くことが、街のほんとうの再生なのだとの指摘が、地震直後から早川和男氏や河村宗次郎氏ら多くの人によってなされています。

 教会は、この街の再生と相まって使命を果たすことが大切だとの思いを深くします。


心のやすらぎのある街づくりへと

「安全な都市よりも安心な都市を」、木村尚三郎氏の論説は21世紀が国家よりも都市に重きがおかれる時代だと見通している洞察に富むものです。

 安心とは、震災で最も激しく襲われた弱者が憩える信頼関係のことです。

 このたび行政の機能しなかった間をぬって、NGO関係諸団体、YMCA、YWCA、神戸学生青年センター、アジア友の会、カトリック教会などキリスト教諸団体では、ボランティアを中心に障害者、高齢者、外国人労働者・留学生などに目を向けた活動がなされました。

 このような働きの広がりを心から願うものです。


歴史的建物の保全を

 神戸の近代建築の重要な建物が多数倒壊しました。

 神戸栄光教会、下山手カトリック教会の美しい建物の消滅が惜しまれます。

 神戸教会会堂の保存は今後大きな意味をもつでしょう。神戸で近代建築を守る運動を続けている足立裕司氏らと協力して、その趣旨を行政や市民に訴えていくのも私たち教会の責任でありましょう。


原体験の共有からの温かみ

 あの烈震の体験者には、どこかに「生かされている」という思いがあります。以前なかった優しさがあります。他地域の人にはわからない面があります。

 これは、例えばキリスト教信仰の福音の出来事の共有への比喩ともなります。

 他地域の人々の援助、訪問、激励、祈りは、この地震の原体験への止むにやまれない参与であり、実に尊いことです。

 被災者は局地の苦難にもかかわらず自立しなければなりません。その自立があってこそ、広い連帯を活かすことができるのではないでしょうか。

 地震は私たちの間に厳しさと優しさと人間関係の両面を残したと思います。

 それは、神の裁きと救いの同時性を暗示しています。

 それを共に大切にしつつ、これからを生きていきたいと思います。




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