婦人像の遠景 – 小磯良平とキリスト教 –(1991 小磯画伯)

1991.6.23 神戸教会

(サイト追記)以下、『聖書の風景』p.7より抜粋
「なお小磯は同年二十三歳のとき、小磯吉人・英の養子となっている。岸上家と小磯家はともに旧三田藩九鬼家の家臣であり、明治初期神戸にキリスト教をもたらしたアメリカン・ボードの宣教師D.C.グリーンによって導かれたキリスト教の家庭であった」

(サイト補足:『聖書の風景』で紹介されている小磯氏とご両親以外、お名前は英文頭文字で伏せてあります。小磯画伯(1903.7.25-1988.12.16)の葬儀がたとえ2000人の会葬者が見込まれようと「神戸教会でなければならなかった」こと、受洗後46年を経て(1979年文化功労者となられた折)青年から洗礼の動機を尋ねられて「母のつよいすすめによります」とお答えになったこと、このテキストを読んで腑に落ちた)

1、はじめに
 ・呼び方:「兄」「先生」「画伯」「氏」「さん」「小磯(言い切り)」
 ・「牧師」としての最初の訪問(1978年)
 ・一瞬を熟視する人。永遠を注視する人。

2、神戸のプロテスタント(新教)キリスト教(特に会衆派について)
 ナザレのイエス、原始キリスト教、ローマ・カトリック教会、東方正教会との分裂、宗教改革(16世紀)によるプロテスタント教会の成立、英国国教会とピューリタン(清教徒)、ピューリタンのオランダ経由アメリカへの移住(1620年)、アメリカのプロテスタント諸派の成立(長老派、バプテスト派、会衆派、クェーカー)。
・会衆派を中心とした、アメリカン・ボード(米国外国伝道会)の誕生。
・日本開国と米国諸派教会の伝道、長老派→東京、会衆派→関西。
・D.C.グリーン夫妻の派遣(1870, 明治3年)、摂津第一公会(現神戸教会)の設立(1874年, 明治7年)。
・会衆派の特質:文化、思想、道徳、教育の統合

3、神戸教会の多様性とその系譜
 ① 男性:宣教師と歴代牧師・伝道・産業・文化(神戸YMCA)
 ② 女性:婦人宣教師・婦人会・教育(神戸女学院、頌栄保育学院、女子神学校)
 ③ 弱者:社会事業家たち、社会(神戸真生塾)

4、婦人宣教師の働きと神戸女学院
 1873年 タルカット(Eliza Talcott)とダッドレーの来日、私塾開校。
 1875年 三田藩主 九鬼隆義の斡旋で北長狭に移転。
 「女学校」(通称:神戸ホーム)開設 タルカット校長。
 タルカット(1836-1911)書簡から見る信仰的伝統はピューリタニズム。
 小磯はタルカット像を山下薫子氏の熱心な依頼で描く(素描、神戸女学院所蔵)。

5、タルカット書簡
 1874年8月7日付「少女たちを監督する方‥‥等しく模範となり、忍耐、機敏さ、正直、また福音的諸徳の全てに向けて、この人たちを訓育いたしますよう不断の機会を与えてくれる…」
 1877年8月「わたしの最大の望みは、これら愛らしい少女たちが、まじめで聡明で克己心のあるクリスチャンになることでございます」。

6、神戸教会名簿(明治21年–33年消失欠損)に見られる小磯良平の身近な人々。
・小寺(小磯)英(1886.1.3 原田助牧師より受洗 神戸女学院第1回在学生)
・小寺.T(1885.5.4 松山高吉牧師より受洗)
・小寺.K(1887.3.6 原田牧師より受洗)
・岸上.K(1912.9.22 米澤尚三牧師より受洗 Bの父)
・岸上.K(1878.7.7 アッキンソン牧師より受洗)
・岸上.K(1912.5.19 米澤牧師より受洗 Bの息子)
・岸上.K(1903.1.4 原田牧師より受洗)
・岸上(松原)K(1903.9.8 原田牧師より受洗 Bの妻 Rの実母 女学院第9回卒業生)
・岸上.T(1877.1.7 アッキンソン牧師より受洗)
・岸上.T(Bの娘 Rの姉)
・岸上.B(1901.9.8 原田牧師より受洗 Rの実父)
・岸上.R(1877.1.7 アッキンソン牧師より受洗 Kの妻、Bの母)
・小磯.M(1884.11.2 原田牧師より受洗 吉人の母)
・小磯吉人(よしたみ)(1884.11.2 原田牧師より受洗)
・渡辺.T(女学院第1回卒業生、小磯英と同級)
・落合.T(米澤牧師より受洗)
・小磯.S(1933.7.16 鈴木浩二牧師より受洗)
・小磯良平(1933.7.16 鈴木牧師より受洗)

7、小磯英の人柄
自分を律することに厳しい、度を越さない、腹八分、編み物に熟達、教会へ行くか編み物をする、97歳で没するまで聖書を読む、牧師を大事にして、よく教会の奉仕をする(S.K夫人、K.K夫人談)。
小磯は母の逝去時、母を記念して教会に絵皿を二枚寄贈。英は、吉人のまとめた『神戸教会月報』(明治34年-昭和13年)を寄贈。

8、小磯良平のキリスト教 – 匿名化された精神としての宗教性

目:永遠との繋がり・清さ・描写の根源
指:歴史を刻む・自分を律する・技法の修練
(信仰とのアナロジー)

・ピューリタン的生活へのとまどいと抗い、教会の実生活からの距離
・キリスト教への奉仕、聖書の挿絵(1970年)他
・戦争協力への反省(戦争画による賞に悩む)

9、まとめ
3-②の系譜にありつつ、永遠と歴史をつなぐ実在として、キリスト教の根源に関わった。

心の清い人々は、幸いである、その人たちは神を見る
マタイ 5章8節


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