死んでいたのに生き返った – 目覚めた魂の輝き

「現代社会に生きる聖書の言葉」
湘南とつかYMCA ”やさしく学ぶ聖書の集い”

第60回「新約聖書 イエスのたとえ話」③
ルカ福音書 15章11節-24節

1 、NHK の朝ドラ「あまちゃん」では、主人公の高校生の女の子の家出を巡って話題が展開しています。家出は若者にとって、人間として目覚め、飛躍する人生の節目です。
家出と言えば「家出の思想」の大先輩はイプセンの『人形の家』(1879) です。発表当時賛否両論があったそうです。「家出は転落の始まり」と否定的な評価と、「人間が人間として生きる目覚め」であるという積極的評価です。家出は与えられた秩序の中で与えられた価値感や道徳に縛られて生きることからの脱出です。『家出のすすめ』の寺山修司は挑発的に家出をすすめて話題になりましたが、勿論ノラを評価します。

実はイエス自身は父親ヨセフなき後母マリヤと兄弟姉妹を助けて一家を支えるべきであったのに、家出をします。放浪の生活で、当時最底辺を生きていた、犯罪人や遊女、精神病者たち、当時の律法秩序を守れない「罪人」と共に生き、政治犯として33歳で殺されてしまいます。

そのイエスが語った「放蕩息子の譬(たとえ)」は聖書では有名なお話です。しかし、家出の話としてはもう一つパンチがきいていません。多分、物語は家出のすすめにあったのではなく、彼を見守る「父親の愛の物語」(神学的に慈愛の父なる神)に中心点があって伝えられたのであろう、と言われます。

さらに、放蕩息子を受け入れる父親と弟を非難する兄を、イエス時代の律法学者やパリサイ人などの宗教家の在り方になぞらえて批判したものである、と言われています。レンブラントはこの場面を絵にしました。この兄の物語をとおしてイエスの当時の社会秩序への批判を読み取ることが出来ます。この物語を「放蕩息子の悔い改め」の物語として読む読み方がなくはありません。これは、「悔い改め」というテーマを好むルカ福音書のテーマに合わせる読み方です(マタイ6、マルコ3、 ルカ10)。

2 、さて、譬話というのは多様な読み方が出来ます。しかし譬には生活の座があります。自分の所有地に常駐する大農経営者、大勢の雇い人は日雇いの労働者の物語です。放蕩息子も行った先で日雇いと「失業」を経験したと思われます。「食べ物をくれるひとは誰もなく」「飢えて死にそうだ」。この経験は貴いのではないでしょうか。そこからもう一度生き直そうとするが、人情の薄い社会を経験する。「豚の食べるいなご豆」(パレスチナの常緑樹樹高9メートル、鞘15センチに5-6 粒の豆、飴の材料、豚の餌、貧民の食料)の経験をします。それは最底辺の実情でした。

息子はこのどん底でこそ自らの魂の輝きを発見します。父の愛と息子の魂の輝きとが呼応する再会の出会いの物語と読みたいと存じます。現代の生活の座での物語として展開したらどうなるのでしょうか。奥田知志著『もう、ひとりにはさせない:わが父の家にはすみか多し』(2011 いのちのことば社)ホームレス支援の牧師の話を思い起こした。

また、イエスは言われた。「ある人に息子が二人いた。弟の方が父親に、『お父さん、わたしが頂くことになっている財産の分け前をください』と言った。それで、父親は財産を二人に分けてやった。何日もたたないうちに、下の息子は全部を金に換えて、遠い国に旅立ち、そこで放蕩の限りを尽くして、財産を無駄使いしてしまった。何もかも使い果たしたとき、その地方にひどい飢饉が起こって、彼は食べるにも困り始めた。それで、その地方に住むある人のところに身を寄せたところ、その人は彼を畑にやって豚の世話をさせた。彼は豚の食べるいなご豆を食べてでも腹を満たしたかったが、食べ物をくれる人はだれもいなかった。そこで、彼は我に返って言った。『父のところでは、あんなに大勢の雇い人に、有り余るほどパンがあるのに、わたしはここで飢え死にしそうだ。ここをたち、父のところに行って言おう。「お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。もう息子と呼ばれる資格はありません。雇い人の一人にしてください」と。』そして、彼はそこをたち、父親のもとに行った。ところが、まだ遠く離れていたのに、父親は息子を見つけて、憐れに思い、走り寄って首を抱き、接吻した。息子は言った。『お父さん、わたしは天に対しても、またお父さんに対しても罪を犯しました。もう息子と呼ばれる資格はありません。』しかし、父親は僕(しもべ)たちに言った。『急いでいちばん良い服を持って来て、この子に着せ、手に指輪をはめてやり、足に履物を履かせなさい。それから、肥えた子牛を連れて来て屠りなさい。食べて祝おう。この息子は死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったからだ。』そして、祝宴を始めた。

新約聖書 ルカ福音書 15章11節-24節