2012.4.28 キリスト新聞
(明治学院教会牧師、健作さん78歳)
昨冬、岩波現代文庫で渡部良三著『歌集 小さな抵抗 – 殺戮を拒んだ日本兵』が出版された。筆者は畏友・高見敏雄氏(日本基督教団隠退教師)からシャローム図書の99年版第3刷の寄贈を受け、すごい本だと脳裏に刻まれていたので、この出版を喜ぶ。
旧版には、内村鑑三から3世代目にあたる無教会の中心人物であった高橋三郎氏が
反戦は父に誓いしひとすじぞ御旨のままをしかと踏むべし
鳴りとよむ大いなるものの声きこゆ『虐殺こばめ生命を賭けよ』
を引用し、「序」を記した。
新版は岩手大学教授の今野日出晴氏が16頁にわたる解説「敵も殺してはならない」を寄せた。
筆者は22年生まれ。学徒動員で日中戦争下、中国戦線に動員された。新兵に度胸をつける軍隊の悪習で、中国人捕虜の刺殺を命令される。著者の内面は、命令から実施までの7時間、無教会派の伝道者父弥一郎から受け継いだ信仰的価値観と、天皇の戦争価値観とが激しく葛藤する。遂に「拒否」。続くリンチ。
厠でありあわせの紙に書き綴った詠作の短歌700首余を復員の折に軍衣袴に縫い付けて持ち帰った。それに前後作を加えた記録だ。
生きのびよ獣にならず生きて帰れこの醜きこと言い伝うべく
(健)
(サイト追記)
アジア太平洋戦争末期、中国戦線で中国人捕虜虐殺の軍命を拒否した陸軍二等兵の著者は、戦場の日常と軍隊の実像を約700首の歌に詠んだ。そしてその歌は復員時に秘かに持ち帰られた。学徒出陣以前の歌、敗戦と帰国後の歌も含めて計924首の歌は、戦争とその時代を描く現代史の証言として出色である。戦場においても、人を殺してはならないという信条を曲げなかったキリスト者の稀有な抗いの記録である。(「BOOK」データベースより)
沖縄「復帰」40年(2012 望楼 ㉜)