「望楼」 アジアを描く画家

2011.1.22 キリスト新聞

美術の側の多くは政治に無関心であり、政治的運動の側は芸術に無関心だった」

アジアを描く画家・富山妙子さんの言葉である。

 富山さんの原体験は女学生時代のハルピンの街の植民地抑圧下の極寒の凍死犠牲者、日本の警官に泥靴でけられる「苦力」(クーリー:港湾労働者)である。画家として、炭鉱、光州抵抗、日帝戦争責任、「慰安婦」などの強烈なテーマを神話的ルーツをも交えて描き続けてきた。今は亡き松井やよりさんや東海林路得子さん(矯風会ステップハウス所長)たちと運動を共にしつつ、他方では音楽家・高橋悠治氏と絵画と音楽の共同制作の芸術表現を行っている。87歳でなお意欲的活動を続ける富山さんの作品展が東京YWCAの主催で同会館カフマンホールで昨年末行われた。後援にはキリスト教団体の名も。

 自伝『アジアを抱く – 画家人生 記憶と夢』(岩波書店 2009.5)には、近代西欧文化を普遍とする思考、また男性文化中心の芸術や政治を鋭く問うまなざしがある。ラテン・アメリカでの旅の経験をも包含してアジアの悲惨と同時に命が描かれている。「抱く」という表題の彫りの深さに圧倒された。

 現代日本のキリスト教芸術家たちとの対話はあるのであろうか。(健)


「わたしの人生の始まりと終わりに戦争があった」
心に刻まれたマンチュリアの赫い落日
軍事政権下の凍ったソウルの春
踏みにじられたアジアの女たちの深い哀しみ……
そして今、再びの戦世に ひとりの画家として祈りを捧げ、絵を描く 

日ごと戦争の影の濃くなる満州から戦時下の東京での美術学生時代、さらに戦後の鉱山の連作に到る若い日々。
60年代の中南米への旅を経て、凍てつくような70年代のソウルの春に出会った獄中の徐勝、死刑を宣告された金芝河、そして元従軍慰安婦たち……。
アジアを踏みにじり虚栄を謳歌する日本に戦争の傷と記憶を刻みつけ、今なお戦の世に生きる人々に命の種を贈り続ける画家の全貌。 

(岩波書店コメント)