知恵は武器にまさる ー 安保を見直す(2010 コヘレト ③)

2010.11.10、湘南とつかYMCA “やさしく学ぶ聖書の集い”
「現代社会に生きる聖書の言葉」第3回、「旧約聖書コヘレトの言葉から」③

(明治学院教会牧師 健作さん77歳)

コヘレトの言葉 9章13−18節

1.「コヘレト」は招集するという言葉から来ている。「集会で語る者」の意味だとされる。

 この書物は、一つのまとまった物語や思想体系や神学の知識を述べたものではない。日常生活の経験の中から出た深い知恵を含んだ文章や格言が並べられている。

2.戦争の戦略理論を極めつくした王が町を攻めた時、その町の一人の貧しい賢人が、ちょっとした機転やトリックの知恵で、その攻撃から町の人をを救った、しかしこの人は顧みられなかった。それでよいのか、というのがこのお話。

3.何時の時代にも貧しい人がいる。何故なのか。社会的な搾取があるからではないか。

 紀元前2世紀後半のパレスチナでは、アレキサンドロス大王の支配が終わって、プトレマイオス王朝とセレウコス王朝の二つの勢力がぶつかりあっていた。

 5回のシリア戦争(B.C.301-198)があった。ユダヤは宗教的自治権があったものの、政治的には王朝に服従を迫られ、徴税制度の強化、大土地所有制や輸出商業権の独占形態により、民衆の苦痛は過酷で、奴隷への転落者が増し、政治的支配と戦争の二重の苦しみが民衆にのしかかっていた。

 さらに、祭司による神殿政治(公定宗教)は「神は正しい人に報いる」(因果応報)との律法遵守を基本原理として、犠牲の祭儀ができない者を神の罰を受けている者と差別し、社会的搾取に加えて宗教的差別が貧しくされた人々を苦しめた(神殿体制が政治的抑圧を補完)。

「貧しいこの人のことは誰の口にものぼらなかった」。それでよいのか、が問われている。「貧しい人の知恵は侮られ、その言葉は聞かれない」は差別の二重構造を示している。

 コヘレトは「因果応報」の体系的思想に「否」を言い、賢者の格言的知恵を逆手に取って絶望の淵にある民衆を励ました。

4.抑圧され、貧しくされた人たちによって言い伝えてきた知恵は大事なのだ。それは生き抜いてきた力であった。神の働きはそのような格言に宿っているのだ、といったのが「コヘレト」である。本当に大事なことは「賢者の静かな言葉が聞かれることなのだ」。「知恵は武器にまさる」(18節)と。

5.「太陽の下に」(13節)はコヘレトでは29回。地上の生活空間を意味しているが、これは当時の王朝の絶対支配を暗示している。エジプトの王朝にしろ、シリアの王朝にしろ、商業利益中心、そのための軍事力優先が絶対の価値観であった。

 しかし、ほんとうに人間はそれでよいのかと疑いつつ、助け合い、支え合い、家族の絆を大事にして「向こう三軒両隣り」の共同社会を信じて生き抜いてきたのが、最底辺の庶民の知恵であったのではないか。

「支配者が愚かな者の中で叫ぶよりは、賢者の静かに説く言葉が聞かれるものだ」(17節)。その賢者がそっとつぶやいた言葉が「知恵は武器にまさる」という言葉なのだ。

6.今、この言葉を沖縄の文脈に置いてみよう。4月25日、9万7300人の人々が読谷村に集まって「県民大会」(正式名称「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と、県内移設に反対し、国外・県外移設を求める県民大会」)がおこなわれた。人口比で言えば東京で90万人の集会が持たれたのと同じ重さを持つ。そうして、名護市長選挙、同市議会議員選挙でも「辺野古基地建設」反対派が選ばれた。そこには強い反基地の意思がある。しかも、国の容認派擁護の過酷な金権工作の下で、である。沖縄戦、米国統治、米軍基恒久化と集中、基地の犯罪、基地の危険、ベトナム・イラク戦争の加害者性など、本土の者にはわからない、長年の苦しみの生活の中の知恵から、生み出された行動である。

 なぜ、独立国であるはずの日本国に、外国軍隊がいるのか、そして「思いやり予算」まで税金で出しているのか。その根源は、1951年9月8日、当時の吉田茂首相が、「サンフランシスコ講和条約」締結と同時に、米国軍隊の日本駐留を継続するために結んだ「日米安全保障条約」によるものである。

 菅政権の支持率が35%に急落したと、新聞は伝える、なぜか。米国に屈従し、中国、ロシアに対する外交政策が皆無に近いことが、民衆を失望させているという。

 外交とは「知恵」そのものである。東京新聞(1月8日)の第一面は「与那国に『沿岸監視隊』」とあった。対中国の政策に「武器(自衛隊)」をもってくるのが政府である。その前に外交の知恵を働かせてもらいたいものだ。ほんとうに「知恵」がない。外交の知恵が欠けた首相や外務大臣に、聖書のこの「コヘレトの言葉」を読んで欲しい。「知恵は武器にまさる」と。

 米国追従、「奴隷外交」を改めよ。対等な外交を行え。安保を見直せ。沖縄の心につながろう。聖書から現代に生きた言葉を聞こう。

聖書の集いインデックス

青春の日々にこそ、まず、お前の創造主に心を留めよ。
−YMCAの働き (2010 コヘレト ④)

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