2009.5.10、明治学院教会(154)復活節 ⑤
(単立明治学院教会牧師 5年目、健作さん75歳)
コヘレト 5:7-19
”働く者の眠りは快い”(コヘレトの言葉 5:11)
1.「貧しい人が虐げられていることや、不正な裁き、正義の欠如などがこの国にあるのを見ても、驚くな」(コヘレトの言葉 5:17)。
酷い時代だな、と思います。国(メディーナ)は「州」。ペルシア帝国の支配体制を示す言葉。
州内での虐げの中で、自治権を持つ「王」が命の根源である「耕地を大切にすること」が”益”だとコヘレトは言います。
大変に大雑把な見方ですが、歴史家はイスラエル民族の土地をめぐる体制を「部族生産様式〜年貢生産様式〜奴隷制生産様式」の変化として捉え、コヘレト時代は”奴隷生産様式”の時代と見ています。
そこで「農」が基本であるとは、なかなかの見識です。
2.「銀を愛する者は銀に飽くことなく」(9節)。
「銀」(”ケセブ”)は貨幣・現金とも訳せます。コヘレトに6回出てきます。金持ちの貪欲の虚しさが語られます。
財産の守りに心配が募って、眠れない者がいることは肯けます。もちろん貧しい人には不眠があったでしょう。
ブラジルの中ノ瀬重之神父は次のように書いています(『喜んであなたのパンを食べなさい』ラキネット出版 2009)。
”飢え、栄養不良、借金や重労働といったものは、他の貧困の結果と同じように、不眠と疲労をもたらします。しかし、コヘレトは多分、経済的に恵まれた状態にいたので、その方面は無知であったと思われます。”(p.75)
たとえそうだとしても、なお「働くものの眠りは快い」(11節)は至言です。
3.「太陽の下に」(12節)は、エジプトからの間接支配をしているプトレマイオス王朝に代表されるギリシア人のヘレニズム文化の生活様式を象徴する表現だと言われています。
それは、巨大な軍隊、都市国家の創設、自由通商、海洋の征服、そして奴隷制の確立が実行された世界です。そこに金持ちが下手な取引で富を失い、息子に何も残さなかった現状をみて、「人は、裸で母の胎を出たように、裸で帰る」(コヘレト 5:14節)と空虚な現実を語ります。
”わたしは裸で母の胎を出た。裸でそこに帰ろう。”(ヨブ記 1:21、新共同訳)
”風を追って労苦して、何になろうか。”(コヘレト 5:15節)
「風」は政治権力を象徴しています。「風になびく蘆」がいたのです。
4.「自らの分をわきまえ、その労苦の結果を楽しむように定めらている。これは神の賜物なのだ。」(コヘレト 5:18節)
肯定的な発言です。「神に与えられた短い人生」(17節)という捉え方をし「日々に、飲み食いし(17節、新共同訳)」が勧められます。
人生を肯定的に捉えること、「神がその心に喜びを与えられる」(19節)ともう一度念を押しています。
5.コヘレトの時代、農民や貧しい人が極端に生きにくい時代でありました。しかし、神の賜物(支え、肯定)を見抜くヒントが示唆されます。
「働く者の眠りは快い」(11節)はその一つです。
現代の不眠は文明の大きな問題です。国民の5人に1人は不眠を訴えています。入眠障害、中途覚醒、熟眠障害、早期覚醒、これらはストレスや生活習慣からきます。(NHK教育、 2009年5月11日、睡眠障害についての悩み解消の番組)
コヘレトは「眠れる」ということに「神の賜物」のヒントを示唆しています。ヒントは大事。
五木寛之『生きるヒント』(角川文庫)は人生論ではない。ヒントは示唆であって、回答ではありません。きっかけであって、あとは自分で考えて生きる。
コヘレトは生きるヒントの書物です。


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