2008年1月6日、降誕節第2主日、
明治学院教会(99)新年礼拝
(阪神淡路大震災から13年、明治学院教会牧師 3年、牧会49年、健作さん74歳)
ローマの信徒への手紙 12:9-13、説教題「愛には偽りがあってはならない」岩井健作
1.昨年は世相を漢字一字で表すのに「偽り」が選ばれた。
建築、食品、工業製品などでたくさんの偽装が露わになって、大変大きな社会問題になった。
なぜ「偽り」が横行したのだろうか。
利益が最優先とされ、人の目を欺いても利益を上げなければならない社会や経済の仕組みの問題があるからだ。
朝日新聞は1月1日から「ニセモノ社会」という連載の特集をやっている。
モラルの問題だという以上に、偽りを生み出す構造を批判的に問題にして欲しい気がする。
2.仕組みの根底には、世界を席巻する「新自由主義(ネオリベ)」という経済原理がある。
利益のためならば人間も命も連帯も叩き潰して注ぎ込まれる金融資本。
マネーが一切を支配する。マネーの強さが競争を仕掛けて、弱い者を押し潰してゆく。
政治のコントロールが効かない。利益を得る者が権力を握るからである。
3.例えば、食糧。
資本力で、安く大量生産が可能な国から、輸入を通して高いコストの自国の農業を潰してゆく。利益が第一になれば、農業から、命を育む側面は剥奪される。
この60年間、日本の農業政策は命を育む農業を育てることなく壊滅に追いやった。
結果、食料自給率は約30%。だが「有機」の営みは絶えない。
4.そんな中で、命を育むことが、農業の基本だし、また聖書の示す道であると、世俗の潮流に逆らって、「農」を基に働くキリスト教伝道者を養成しようという神学校が不思議にもこの60年存続している。
5.農村伝道神学校。
東京・町田市の丘陵の林にその姿はある。小さな小さな神学校。
教団年鑑を見ると、現在学生数15名(定員は4学年で40名)。卒業生290名。
1948年の設立で、年間5人程の卒業生を伝道者として諸教会に送っている。
これらの中には、凍てついた日本の土壌で福音宣教のフロントを担っている、掛け替えのない器を見る。
昨年、新しい校舎が落成した。ストーン記念館。この神学校の創立に深く関係した、カナダの宣教師の名前である。
6.アルフレッド・ストーン(1901-1954)。
1926年来日。富山、浜松、東京、長野に伝道、戦時一時カナダに帰国。戦後、日本の農村伝道に尽力した。
1954年、彼が函館を出航し遭難した青函連絡船「洞爺丸」で、自らの救命胴衣を大学生に譲って命を落とした話は有名である。
新聞は聖書の言葉「友のために命を捨てた愛」と報じ、政府は叙勲で偉業を称えた。
遺族に支払われた国鉄の賠償金は、申し出により農村伝道神学校に捧げられ、「ストーン・メモリアル・ホール」が献堂された。
その再建が昨年の「(新)ストーン記念館」である。
建築費用1億3000万円のうち、7000万が農伝を支える関係者有志の献金である。そこには、「巨大な力の武将ゴリアテに立ち向かう少年ダビデ」を思わせるものがある。
7.「愛には偽りがあってはならない」。
”愛には偽りがあってはなりません。”(ローマの信徒への手紙 12:9、新共同訳)
この「愛」には定冠詞があるので「神の愛」を示している。
「神の愛」には偽りがない。
「神の愛」に組み入れられた「偽りのない愛」(Ⅱコリント 6:6)は初期教会の最も大切な福音の結実であった。
今日も「偽り」の対義語は「愛」である。
「愛」が利益至上主義から人間を解放する。
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