再度谷を下る(2001 教会報)

再度谷を下る
摩耶山

神戸教會々報 No.164 所収、2001.12.23

(健作さん68歳、退任まで3ヶ月、神戸最後のクリスマス)

常に主を覚えてあなたの道を歩け。 箴言10章6節


 神戸には山の風情がある。

 街中の高層のビルの喫茶店からの眺望もよいが、山歩きの気分は春夏秋冬それぞれに解放感がある。『近代日本と神戸教会』(創元社 1992年)の「六甲の自然とレジャー」(82頁)によれば、背山登山の先駆者は神戸教会員・塚本永堯だという。彼は1913年、再度山から摩耶山を縦走して神戸草鞋会を発足させた。市民の毎日登山の初めである。今年は、地震後廃止かと思われていた摩耶ケーブルが復旧した。

 夏、さっそく乗ってみた。膝を痛めていたのを理由に、山登りには邪道だが、連れ合い共々天狗道だけを世継山まで下り、山頂のハーブ園からロープウエイで下りた。

 それでも尾根歩きの気分は十分味わえた。最近は忙しく山へ行かなくなった。市ガ原、大竜寺、修法ヶ原池、仙人谷、外人墓地、森林植物園、トゥエンティークロスなどの散策は、神戸に住むものの特権であろう。

 外人墓地といえば、最近遅まきながら、『使徒たちよ眠れ − 神戸外人墓地物語』(谷口利一著、神戸新聞出版センタ−、1986)を読んだ。谷口さんは三十余年間墓地管理の職。神戸に尽くし、神戸に骨を埋めた外国人の一人一人に愛情と敬意をもって筆を進めている。

 タルカットなど、神戸教会、神戸女学院に関係した宣教師たちの物語も詳しい。大竜寺から毎日登山発祥之地の記念碑のある善助茶屋跡から下ると狸々池に出る。二本松林道を横切り、大師道へと道は急な坂道で再度谷にでる。狸々池はその昔花隈村の用水池だったと聞く。

 森閑とした再度谷は、早春は木の芽の膨らみ、初夏は水辺のおたまじゃくし、秋は燃えるように陽に映える紅葉、冬は雑木林の幹がひき締まり、年輪を重ねた木肌が心を打つ。どの季節も美しい。20分も谷間を下りると、灯籠茶屋の広場にでる。十数年前までは、ここの湧き水がおいしいといって、朝ラジオ体操をかねて皆が汲みに来たものだ。

神戸市立森林植物園

 上の防災ダム工事で水は涸れた。その頃、谷の渓流の石を動かすと小さな沢蟹がいたが、それもいなくなった。ここまでは下から園外保育で幼稚園の園児と一緒によく出掛けて来た馴染みの場所だが、いつごろからか、猪の出没が頻繁になり、安全を考えてだんだん遠のいてしまった。ここからは舗装の一本道。人家もちらほらと立ち並ぶ。山手学園の脇を通る。谷ではセキレイが水浴びをしている。山肌に触ってみる。風化した花崗岩は六甲山系ならではの感触で、手のなかで細かい粒になって砕けていく。

 灰谷健次郎が神戸に住む沖縄の少女を描いた『てだのふあー』の中で、この山手学園の音楽教室から「旅愁」が聞こえる場面で「ここは神戸のお嬢さん学校だ」と主人公に説明する場面が、ここを通ると妙に思い出される。この作品の映画では、「ひめゆり部隊」の少女たちが、喜屋武半島で手榴弾で自決する時「旅愁」を歌っていた。

 再度川はここから右に曲がり、丘の上の神戸気象台や山の手小学校を左手にして整備された河床を下り、「やまと湯」の横の桜並木を潜りぬけ、今度は左に曲がり、南下して宇治川の暗渠に入っていく。宇治川の近くには「同和地区」の「市営改良住宅」が並ぶ。いつだったか、教団の部落解放センタ−の、今は亡き今井さんが神戸には、「農村」「漁村」「都市」部落があり、「被差別部落」のデパートだ。「岩井さん頑張ってや」と言っていたことがここを通ると思い出される。

 神戸教会とゆかりの深い「社会福祉法人 神戸真生塾」は、中山手通り七丁目の小高い丘の上に建っている。

神戸真生塾

 乳児院と養護施設が営まれている。先の『近代日本と神戸教会』の60頁によれば、「真生塾」の前身「神戸孤児院」が設立されたのは、1893年。三年前の米価暴騰に苦しむ窮民の救援に由来するという。以来百余年、神戸の社会事業の先駆を歩んできた。塾長・矢野彀(やごろ)、水谷愛は神戸教会会員。今は昔と異なり「孤児」が中心というより、「若い未婚の母の子」「家庭内児童虐待」などが、子どもたちを覆う影となっている。今年から、建物を新しく建て替えることになり、9月25日起工式を司らせて頂いた。

 旧館の取り壊しの前日、懐かしい入り口をスケッチした。

 すでに右手には仮設の厨房が建っていた。今年の真生塾のクリスマスは神戸教会で行われる。

 神戸の再度谷の筋は、いわゆる神戸山の手の明るさとは異なり、神戸の影の部分を漂わせている。それはまた神戸教会の宣教の地域でもある。

 神戸の道を歩く日々ももう少ない。

摩耶山展望台

愛の足あと(2005 神戸真生塾)2005.11.1 神戸真生塾広報誌「愛」第2号 所収

個人消息(2001.7.9-12.16)より

9月25日、社会福祉法人 神戸真生塾 新館起工式。

10月14日、礼拝説教 香椎教会
午後、「福岡地区大会」講師「地震から7年」於福岡城東橋教会。

10月18日、故古森昇兄の教会納骨堂への納骨。11月18日、記念式。同兄は遺族がなく、遺言執行人に弁護士・谷村慎介氏を立て、遺産を「宗教法人神戸教会」に遺贈された。

11月24日(土)25日(日)、広島・岩国・宇部に出張。24日、広島YWCAにて講演。25日、岩国教会にて主日礼拝説教。同日午後、山口中分区役員研修会にて講演。

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