愛は勝つ《ローマ 8:31-39》(1992 週報・本日説教のために)

1992.6.21、神戸教会
聖霊降臨節第3主日

(神戸教会牧師15年目、牧会34年、健作さん58歳)

 この箇所は、ローマ書5章〜8章の締めくくりである。

 死の力からの自由(5章)、罪の力からの自由(6章)、律法からの自由(7章)、霊の自由のもとにある人間(8章)とパウロは語ってきた。

 その最後に、自分の愛する子を死に渡す神の救済行為の包括的表現である「キリストの愛」が、この世の諸力に対決する「わたしたち」を、その神の愛から引き離すことはできず、全てのことにおいて勝ち得て余りある、と述べられている。

 ここは、パウロの神学の総括である、と言われる。

 31・32節、33・34節、35〜37節と問答が重ねられ、38・39節が締めくくりとなっている。

 各問答の背後には、その当時すでに伝えられていた様々な讃歌や信仰告白伝承の存在がうかがわれる。


 ローマ書8章31節。

 ”それでは、これらの事について、なんと言おうか。もし、神がわたしたちの味方であるなら、だれがわたしたちに敵しようか。”(ローマ人への手紙 8:31、口語訳)

 私たちが神を味方にしようとする試みは失敗するが、「わたしたちのための神」(原文)は確かである。

 32節。

 ”ご自身の御子をさえ惜しまないで、わたしたちすべての者のために死に渡されたかたが、どうして、御子のみならず万物をも賜らないことがあろうか。”(ローマ人への手紙 8:32、口語訳)

 神の救済行為は「イエスの死」を中心としている(参照:第一コリント 1:18以下)。

 神の愛は、神の一般的属性ではなく、地上における神の行為である。

 33節。

 ”だれが、神の選ばれた者たちを訴えるのか。神は彼らを義とされるのである。”(ローマ人への手紙 8:33、口語訳)

 神が義としてくださる、という表現は、イザヤ書50章7〜9節と関連している。

 34節。

 ”だれが、わたしたちを罪に定めるのか。キリスト•イエスは、死んで、否、よみがえって、神の右に座し、また、わたしたちのためにとりなして下さるのである。”(ローマ人への手紙 8:34、口語訳)

 ここは、ピリピ書2章6〜11節、ヘブル書7章25節、第一ヨハネ2章1節を合わせて読むと良い。

 ”わたしの子たちよ。これらのことを書きおくるのは、あなたがたが罪を犯さないようになるためである。もし、罪を犯す者があれば、父のみもとには、わたしたちの助け主、すなわち、義なるイエス•キリストがおられる。”(ヨハネの第一の手紙 2:1、口語訳)

 35節。7つの「危機目録」には、パウロ自身の体験が背景にある。

 ”だれが、キリストの愛からわたしたちを離れさせるのか。患難か、苦悩か、迫害か、飢えか、裸か、危難か、剣か。”(ローマ人への手紙 8:35、口語訳)

 36節。詩篇44篇22節からの引用。

 ”「わたしたちはあなたのために終日、死に定められており、ほふられる羊のように見られている」と書いてあるとおりである。”(ローマ人への手紙 8:36、口語訳)

 信仰者は苦難を通して導かれる。

 ここは、8章19節〜27節の被造物のうめきと霊の執り成しと関連づけて読まれるべきであろう。

 37節。

 ”しかし、わたしたちを愛して下さったかたによって、わたしたちは、これらすべての事において勝ち得て余りがある。”(ローマ人への手紙 8:37、口語訳)

 「愛して下さったかた」とはキリストのこと。

 信仰者は苦難を通してイエスに服従し、そこで勝利を得る。

 これは福音の伝説である。

 このことの体験は、神の恵みそのものである。

 38節〜39節。パウロの時代の擬人化された10の諸支配力。これらも、神の愛から「わたしたち」を引き離すものではない。

 ”わたしは確信する。死も生も、天使も支配者も、現在のものも将来のものも、力あるものも、高いものも深いものも、その他どんな被造物も、わたしたちの主キリスト•イエスにおける神の愛から、わたしたちを引き離すことはできないのである。”(ローマ人への手紙 8:38-39、口語訳)


 キリスト者とはどういう存在かを、この箇所は深く教えている。

 被造物を含めてのうめきを、自分のこととしていることも事実であるが、また、イエス•キリストによる勝利が打ち消し難い現実であるという二重性を生かされているのがキリスト者である。

 祈らざるを得ない苦難を負いつつ、祈りが開く恵みへと引き出される喜びが示されている。

 PKO法案成立後のこの週、闇と光の二重性の歴史へと一層押し出された実感を禁じ得ない。

(1992年6月21日 週報掲載 岩井健作)



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