新しく生れる《ヨハネ 3:1-10》(1979 洗礼式・礼拝説教要旨・週報)

1979.9.30、神戸教会
説教要旨は10月7日の週報に掲載

(牧会21年、神戸教会牧師2年目、健作さん46歳)

ヨハネによる福音書 3:1-10、説教題「新しく生れる」


 聖書を読んでいると、ニコデモに親近感を覚えないでしょうか。

 ユダヤ社会では最上層に属する老学者で折り目正しく、体制にも与(くみ)せず初心を述べるというくだり(ヨハネ 7:51)は余りそうでもないのですが、人の情厚く反体制側の死刑囚イエスの埋葬をした(ヨハネ 19:39)という辺りや、今日のテキストの《夜ひそかに》イエスを訪ねて、彼なりの「信仰告白」(ヨハネ 3:2)を語ったという所は、人間味豊かです。


”彼らの中のひとりで、以前にイエスに会いにきたことのあるニコデモが、彼らに言った、「わたしたちの律法によれば、まずその人の言い分を聞き、その人のしたことを知った上でなければ、さばくことをしないのではないか」。”(ヨハネによる福音書 7:50-51、口語訳)


”また、前に、夜、イエスのみもとに行ったニコデモも、没薬と沈香とをまぜたものを百斤(きん)ほど持ってきた。”(ヨハネによる福音書 19:39、口語訳)


”パリサイ人のひとりで、その名をニコデモというユダヤ人の指導者があった。この人が夜、イエスのもとにきて言った、「先生、わたしたちはあなたが神からこられた教師であることを知っています。神がご一緒でないなら、あなたがなさっておられるようなしるしは、だれにもできはしません。」イエスは答えて言われた、「よくよくあなたに言っておく。誰でも新しく生れなければ、神の国を見ることはできない」。”(ヨハネによる福音書 3:1-3、口語訳)


 しかし、それにしては、イエスの彼への答えは、ヨハネの物語構成とはいえ、あまりにも直截で、包み隠しのない「真理」丸出しという感じです。

「よくよくあなたに言っておく。誰でも新しく生れなければ、神の国を見ることはできない」(ヨハネ 3:3)というイエスの言葉は、案の定、彼ニコデモの誠実さにも関わらず、すれ違っていますし、理解を超えています。

 そこには「新しく」を「もう一度」という意味にしか取れなかったニコデモの生き方の疲れのようなものも滲み出ています。

 生の充実という究極的なものを求めながら、それを昼の生活の中での激しさの中で戦いとるほどに求められず、夜ひそかに「信仰告白」をせざるを得ない生き方そのものが問題にされているのが、イエスの問題提起でありました。

 とすれば、私たちの信仰生活も、その土台をえぐられているのではないでしょうか。

 社会・政治・経済・文化・教育・家庭・職業・勉学・研究といった人間生活の領域では、どこか割り引かれた信仰告白、ひそかな信仰告白しか出来ないのが私たちの実態です。

 ここで悩む人間はニコデモの分身でもあります。


 イエスは「新しく」という言葉が隠喩とならないと知って「水と霊とから生れなければ」と語ります。


”ニコデモは言った、「人は年をとってから生れることが、どうしてできますか。もう一度、母の胎にはいって生れることができましょうか」。イエスは答えられた、「よくよくあなたに言っておく。だれでも水と霊とから生れなければ、神の国にはいることはできない。肉から生れる者は肉であり、霊から生れる者は霊である。あなたがたは新しく生れなければならないと、わたしが言ったからとて、不思議に思うには及ばない。”(ヨハネによる福音書 3:4-7、口語訳)


 老学者ニコデモは、古き己れが滅んでいく「水」の故事(ノアの洪水物語、紅海渡歩)を悟るべきだったのかもしれません。

 イエスはさらに「霊」は「風」(共にギリシア語”プニウマ”)だ、と語ります。


”風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞くが、それがどこからきて、どこへ行くかは知らない。霊から生れる者もみな、それと同じである」。ニコデモはイエスに答えて言った、「どうして、そんなことがあり得ましょうか」。イエスは彼に答えて言われた、「あなたはイスラエルの教師でありながら、これぐらいのことがわからないのか。”(ヨハネによる福音書 3:8-10、口語訳)


 それは、悟らないニコデモ自身にイエスその人が、愛をもって呼びかけ、関わっている関係の現実を暗示しているのですが、それを悟れない彼を、イエスは「これぐらいのことがわからないのか」と叱責します(ヨハネ 3:10)。

 叱責は関わりの深さの表れです。

 風の如く関わり、歎(なげ)きと憂いで執り成して下さるイエスの確かさをここに見ます。

 そして自分の姿も。

(1979年9月30日 説教要旨 岩井健作)


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