働く者の眠りは快い − 生きるヒント・眠り(2010 聖書の集い 6)

「旧約聖書コヘレトの言葉から」(6)

2010.12.15、第6回「現代社会に生きる聖書の言葉」湘南とつかYMCA

(健作さん 77歳、明治学院教会牧師)

コヘレトの言葉(伝道の書) 5章7節〜19節


1、「貧しい人達が虐げられていることや、不正な裁き、正義の欠如などがこの国にあるのを見ても驚くな。」(5:7) 。

 こんなことが平気で言われているのは、酷い時代だな、と思います。国(メディーナ)は「州」を意味します。ペルシャ帝国の支配体制を示す言葉です。「州」そのものが巨大な帝国の機構のなかで、虐げを受けていました。今日の日本の地方自治体を想像すればよいと思います。そんな中で、なおわずかな自治権を持っていた「王」が、命の根源である「耕地を大切にすること」が「益」だといいます。土地はイスラエルでは「神から受け継いだもの」といって大変大切にされてきました。大ざっぱな見方ですが、歴史家はイスラエル民族の土地を巡る体制を「部族生産様式」(自営農の時代)「年貢生産様式」(土地支配の集約化、小作の時代)「奴隷制生産様式」(大土地所有者の時代)の変化として捉えています。土地所有がだんだん支配権力に握られてゆく過程です。コヘレトの時代は、自営農業がもはや出来なくなって、農耕は、大土地所有者と農耕奴隷の時代と見ています。そこでもやはり州の経済の基本は「農」にあるとの見方は、なかなかの見識です。

2、「銀を愛する者は銀に飽くことなく」(5:9) 。

「銀」(ケセプ)は貨幣・現金とも訳せます。コヘレトに6回出てきます。金持ちの貪欲の空しさが語られます。財産の守りに心配が募って眠れない者がいることはうなずけます。もちろん貧しい人には余計不眠があったでしょう。

 ブラジル・カトリック教会の「中ノ瀬重之神父」が書いた解説(『喜んであなたのパンをたべなさい』)によると「飢え、栄養不良、借金や重労働といったものは、ほかの貧困の結果と同じように、不眠と疲労をもたらします。しかし、言葉を使う知識階級に属していた「コヘレト(集会の主催者)は多分、経済的に恵まれた状態にいたのでその方面は無知であったと思われます」(p.75)と書いています。たとえそうだとしてもなお「働くものの眠りは快い」(5:11)と言われています。「働く者が眠れる」政治がなされていることが大事なのです。眠りは、文明の劣化のバロメーターです。

3、「太陽の下に」(5:12)はエジプトからの間接支配を受けているプトレマイオス王朝に代表されるギリシャ人の文化ヘレニズムの生活様式を象徴する表現だといわれています。それは、巨大な軍隊、都市国家の創設、自由通商、海洋の征服、そして奴隷制の確立が実行された世界です。そこに金持が下手な取引で富を失い息子に何も残さなかった現状を見て、「人は、裸で母の胎を出たように裸で帰る」と空虚な現実を語ります(ヨブ記1:21)。「風を追って苦労したところで何なろうか」(5:15)。「風」は政治権力を象徴的しています。「風になびく葦」がいたのです。

4、「自らの分をわきまえ、その労苦に結果を楽しむように定めされている。これは神の賜物なのだ」(5:18)。肯定的な発言です。「神に与えられた人生」(5:17)という捉えかたをし、「日々に食い飲みし」(ヘブル語では<食い飲み>の順序)が勧められます。人生を肯定的に捉えることのヒント、「神はその心に喜びをあたえられる」(5:19)ともう一度念をおしています。

5、コヘレトの時代、農民や貧しい人が極端に生きづらい時代でありました。しかしそんな悪い時代でも神の賜物(支え、肯定)を捉えます。それには、それを見抜くヒントが示唆されます。「働く者の眠りは快い」はその一つです。

 現代の不眠は文明の大きな問題です。日本でも「国民」の五人に一人は不眠を訴えています。『入眠障害』『中途覚醒』『熟眠障害』『早期覚醒』。それは、ストレス、生活習慣からきます(2010年5月11日 20:30-20:45(15分) NHK教育で睡眠障害についての悩み解消の番組がありました)。

 コヘレトは「眠れる」という事を「神の賜物」を見分けるヒントにしています。「眠れた?」これは現代を生きる「健康度」のヒントです。

 五木寛之『生きるヒント』(角川文庫)は人生論を語ってはいません。ヒントは示唆であって回答ではありません。きっかけであって、あとは自分で考えて生きる。

 コヘレトの知恵や格言は生きるためヒントの書物であったのではないでしょうか。「人生論」は自分自身が築く以外にないのです。しかし、ヒントは強い助っ人です。聖書の「律法」や「預言者」の他に「諸書」といって文学のジャンルの「コヘレト」のような書物があることは、聖書をどんなに豊かにしているでしょうか。

 これで「コヘレト」は一応終わります。

次回:「悲しむ人々は幸いである − 現代人の優しさとは」マタイ 5:4

「現代社会に生きる聖書の言葉」第7回、「福音書のイエスの言葉から」(1)