惜しみなく分け与え – 豊かさの逆説

「現代社会に生きる聖書の言葉」
湘南とつかYMCA ”やさしく学ぶ聖書の集い”

第46回「新約聖書コリントの手紙とパウロ」⑦
コリントの信徒への手紙Ⅱ 9章6節-15節

1 、パウロは3回の伝道旅行をしています。第1回はバルナバとマルコを伴い、アンテオケからキプロス島を経て小アジア中南部地方のユダヤ人会堂を足掛かりにした伝道でした(言行録13:4-14:28)。ユダヤ教の伝統に固執する者たちの反対にであいます。そこでエルサレムでパウロの目指した異邦人伝道について、エルサレム教会の指導者と協議をします。エルサレム会議といわれています(言行録15:1-21)。第2回伝道旅行(言行録15:40-18:22) はシラスを伴いアンテオケから内陸小アジアを経てトロアスからエーゲ海を渡りマケドニアからフィリピ、テサ口ニケ、アテネを経てコリントでは1年半も滞在して、エペソを通り海路カイザリヤに上陸しエルサレムに戻ります。第3回伝道旅行(言行録18:23-21:14)は、小アジアの内陸に伝道し、海を渡ってマケドニアからコリントに行きエルサレムへの海路を引き返したものでした。この旅行の目的は「エルサレム教会への献金運動」でした。これをなし終えて、最後には反対派により2年間カイザリヤで監禁され(言行録21:17, 24:27)、ローマの市民権を持つゆえに皇帝に上訴したため、困難な中、ローマに送られ(言行録27-28章)、61-62年ごろローマで殉教します。

2 、パウロはディアスポラ(パレスチナから他の世界に離散したユダヤ人)でしたが、ユダヤ教では、律法に厳格なパリサイ派で学びユダヤ教の正統でした。しかし、律法を守ることで救いを得ることに疑問を感じ、律法を止揚したイエスの福音に接して、改心をしました。しばらく時を経て(ガラテヤ1:17) エルサレムでペテロに会い、それから伝道活動を入ります。その中でコリント伝道を行い(言行録18章)、そこを去って後コリント教会指導のため幾つかの手紙を書きました。第二の手紙は、この教会との関係の悪化の中での手紙でした。関係を修復するために、本気で自分の心のうちを有りのままに語っている手紙です。それだけに、心の内からほとばしる珠玉の言葉が出てきます。それをたどって、今まで「言葉の取次」をしてきました。

3 、今日の箇所は、ここでパウロは熱心にエルサレム教会への献金運動に参加するように勧めます。すでに、マケドニアとアカイアの諸教会はこの運動に取り組んで成果を挙げていました。献金の目的はこの手紙の主としてエルサレム教会の窮乏に対する援助でした(8:14, 9:12)。しかし、パウロは献金運動を単に経済問題だけから論じてはいません。それは、窮乏の援助以上の意味をもたせています。それはエルサレムの信徒たちを一貫して「聖徒」と呼んでいることに現れていると研究者は指摘します(『使徒パウロ』佐竹明 1981 NHKブックス) 。それは異邦人教会はエルサレム教会に直接の伝道の恩恵に預かっているわけではなて、パウロの働きによるものであるけれども、そもそもイエスの福音は、ユダヤ的伝統の克服から生まれてきたもので、その伝統の歴史を理解しないと、「観念的なもの」になってしまう危険を感じていたからであろう。つまり、献金をすることは、一方的に援助するのではなく、献さげることによって相手の持っている賜物(ユダヤ的伝統の大事なもの)を与えられることでもある、という理解に立っています。エルサレム教会はユダヤ人の教会で、イエスの従う群れであっても、そこにはユダヤ的なるものが、克服されてきた歴史と共にあります。その歴史を思い返し、底にある「闘いの歴史」という恵みに預かるために献金は大事だという趣旨であります。例えば、憲法の人権の条文などは、それが闘いとられた歴史があり、それに参与することで言葉が観念化しないで生きてくるようなものです。

3 、「惜しみ無く」(9:9) は詩編112:9 にある言葉で、申命記24章の貧しいものに対しての担保に規定などがあり、旧約の金銭に対する関わり方の一端が表されている。パウロは信仰が観念化しないようにとの歯止めを献金運動のうちに盛り込ませた。「惜しみ無く」を意味する「ハプロテース」は、単純、純情、真心(ふたごごろのないこと)で、同じ語は福音書では「(目が)澄んでいる」(マタ6:22)と用いられています。震災では援助の側にあったものが、実は多くの賜物を与えられたという経験がたくさんあります。ここでも「惜しみ無く」という関係が人間のつながりを生み出しました。

現代では、人権、命とくらしなど、貧困、教育など「支援の要請」が数限りなくある。そこからは逆に我々が必要としている精神的賜物があるに違いない。「惜しみ無く」の精神を覚えていきたい。

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