みっちゃんの博士さん(2011 お話)

2011.12.17(土)、YMCAとつか保育園・乳児保育園クリスマス

(明治学院教会牧師 健作さん78歳)

 みっちゃんという名前の男の子がいました。

 みっちゃんのお家は、もう高校生の正男お兄ちゃんと中学生の次郎おにいちゃんとお父さんとみっちゃんと4人暮らしでした。お母さんはみっちゃんがうまれてからご病気でなくなってしまいました。神様のところへ行ったのです。

 ある日、お父さんがまじめな顔をして、正男、次郎、大事なお話があるから、そこに座って聞いてほしい、と言いました。「みっちゃんも、まだ小さいけれど一緒に聞きなさい」と言うので、みっちゃんも御座りしました。

「正男も、次郎も知っている通り、お父さんは鉄工所をやっていて、親会社から来るお仕事をしています。普段は、お百姓さんの使う鉄のお道具を作っています。畑を耕す、鍬や、鎌や、耕耘機の部分品です。ところが、この頃アメリカがベトナムで戦争をしていて、戦争の道具を日本にも作ってほしいといって、親会社から戦争の道具を作るように言われたんだよ。機関銃とか通信機とか戦争をするにはなくてはならない道具が沢山いるようになったんだ。その部分品を作れということです。お金は今までより沢山あげようと親会社からは言ってきました。でもお父さんは、一晩よく考えたんだ。お父さんが信じて、大事にしているイエス様はどうおっしゃるか、考えたんだ。そしてお祈りをして、思ったのだけど、イエス様の御心にしたがったら、どうしても戦争の道具は作れない、と考えました。その道具が、ベトナムで人を殺すと考えると、どうしてもこのお仕事は出来ないと、決心したんだ。そこで親会社に、今度のお話はお断りします、と言いました。そうしたら、もういい、お前のところには、もうお仕事をやらないということになったんだ。そこで、お母さんが亡くなってから、忙しくしていて、お家のことも出来なかったから、この際、鉄工所の工場をやめることにしました。もう今までのようにお金がたくさん入ってこないけれど、お前達を大切にして、違うお仕事をやろうと思う。お父さんの気持ちをお前達も分かってほしい。」と言いました。

 そうして「みつお。おまえはまだ幼稚園で良く分からないだろうけれど、何時か、お父さんの気持ちがわかる時が来るよ。」と言いました。

 みっちゃんは、今年の幼稚園のクリスマスでは”博士さん”の役をやることになっていて、今、練習をしています。博士さんが、どうして東の国からイエス様を拝みにきたのかが不思議でした。お星様に導かれて、というのは分かりますが、もっともっと深い訳があるような気がしました。そこでお父さんに聞いてみました。

 お父さんは、こんなお話をしてくださいました。

「ペルシャのお国には、きっと戦争をして、周りの国より強くなろうとした王様がいたのだと思うよ。その王様が、国中の博士たちや学者さんたちを集めて『戦争をするには、どうしたらよいか、考えてくれ』と王様はいいました。学者さんや、博士さんたちは、王様の「御用」なら何でもします、と言っていろいろ考えました。初めの学者さんは『王様、王様。戦争をするにはお金がかかります。だから、国民の税金をあげなければなりません。税金を高くして。たくさんお金を集めましょう』。次の博士さんは『王様、王様、戦争をするには、向こうの国よりたくさんの兵隊が必要です。国の若者は、みんな兵隊になる制度、仕組みを作りましょう』『王様、王様。戦争をするには、戦争が大事だ、戦争が大事だ、と国民に教えなければなりません。学校で、戦争が大事だと子供たちに教えましょう』。王様の『御用』をする学者さんや、博士さんのことをそのころ『御用学者さん』『御用博士さん』といいました。

 でも、王様の言うことは間違っていると思う博士さんがいました。『王様の御用学者、御用博士にはなれないな』と思っている博士でした。その博士のお名前は、バルタザール博士といいました。博士は戦争をしなくて、平和な世界はどうすればいいのかな、とお星様のことを調べていました。昔の昔のご本を調べていると、戦争はいけません、人々が仲良くする平和を作り出してゆきましょう、という新しい王様がユダヤの国にお生まれになることが書いてありました。

『善は急げ』という。早速、その王様のところへ参りましょう、といって駱駝を用意して、旅のお支度をしました。『捧げ物には、大事にしていた黄金を持ってゆきましょう。お金は戦争のために使わないで、困っている人も幸せになるために使って戴きましょう』と考えました。

 さて、一人でそうっとペルシャの国を出てしばらく行くと、右の方から、やっぱり駱駝にのった博士が来ます。『やあ、どちらへ』『新しい王様を尋ねるのです。私は、メルキオールといいます』『そうですか、あなたも王様の御用学者にはならなかったのですね』『そうです』。

 すると左の方から、もう一人駱駝にのって博士が来ました。『やあ、皆さん新しい王様を尋ねるのですね、私はカスパールと申します。私は捧げ物に、大事にしていた乳香を持ってきました。人の心を潤す『文化』は平和の君に用いて戴きたいからです。』『私は『没薬』を持ってきました。新しい王様が人々の病気を直してくださる薬です。』

 こうして、三人の博士はイエス様のところにきたんだよ。」

 みっちゃんは何だか、戦争のお道具は作らないといったお父さんは、博士さんのような人だなと思いました。

 とても嬉しくなって、クリスマスには”博士さん”の役を一生懸命にやりました。

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