ヨナ書解題(2011 説教補助・ヨナ書)

2011.1.2、明治学院教会(216 補助)
▶️ 礼拝説教「計画」

(明治学院教会牧師6年目、牧会52年、健作さん77歳)

ヨナ書について

1.物語。

 ヨナ書は、旧約聖書の終わりの方、12小預言書の5番目に位置する。

 預言書の通例のような預言集というより、ひとりの預言者の物語である。

 ヨナは最初ニネベに行くように神に命じられるが、それに従うことを拒み、正反対のタルシシュに向かって逃げ出す。

 主は嵐を起こして船を襲わせる。


 嵐の原因が自分にあることを告白し、乗組員に自分を海に投げ込ませる。しかし、彼は巨大な魚に飲み込まれ、その腹の中で祈り、三日三晩の後、陸地に吐き出される。

 改めて神の命令に従い、ニネベに行き、「あと40日すれば、ニネベの都は滅びる」(3:4)と告げる。

 この邪悪な街の人々はヨナの言葉を信じて悔い改める。神はこの「悔い改め」のため、ニネベに災いを下さなかった。

 神のこの憐れみと慈しみの深さにヨナは不満を抱き、神への怒りゆえに小屋を作り、座り込みの抗議をする。神はその小屋に陽射しを遮る植物をもってヨナに応える。

 喜ぶヨナは翌日、植物の枯れるのを経験して、再び神への怒りを持つ。

 異邦の12万の人々の滅びより、自分に関わる植物の消滅に不満を持つヨナに、神は「私がこの大きな都ニネベを惜しまずにいられるだろうか」(4:11)とその忍耐と慈しみを悟らせる、という物語である。

2.成立。

 年代ははっきりしないが、預言者エズラの改革(BC428, BC398)以来、次第に偏狭になってきたユダヤ民族の不寛容や排他主義を批判した書物とされる。

 であれば、BC300年頃の成立といえよう。

3.テーマと研究。

「悔い改め」を率直に喜ぶべき預言者が「神の憐れみ」を欠いたという皮肉が込められている。

 エズラ書、ネヘミヤ書、ナホム書に見られる、異国人に対する排他主義への批判を盛り込んだ「戦闘物語」だとする通説に対して、時代をもっと古く考え、「死んだ方がましだ」(4:3)という虚無的な時代に「生きる意味」を与える庶民的・民間伝承的・知恵文学的性格を持った独特な文学だとする見方がある。

 また、神の不合理ともいうべき普遍的救いを巡って論考がなされる。

 預言者(異邦の宗教に組み込まれることへの危機と攻撃)から一歩抜け出て、ペルシアの宗教への理解をも持つ「寛容さ」が説かれる。

 預言者の宗教と知恵文学との両方が生かされていると見るべきか(『ヨナ書注解』西村俊郎、日本基督教団出版局 1975)。

 また、大きな魚に飲み込まれ、腹の中にいるモチーフは、古い太陽神話に基づいていることを指摘し、その文化人類学的考察、精神分析学的解釈を試みるアプローチもなされている(参照:『キリスト教と笑い』宮田光雄、岩波新書 2002)。

 図版は小磯良平の「聖書の挿絵」から「ヨナ海に投げ込まれる」。


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