命の道を生きる − 貧しさと不条理の死からの問い(2004 震災から10年)

日本基督教団 関東教区 群馬地区大会
2004年11月23日(火)

講演・午前
地震を生きる命

1、はじめに

 今日は、ほぼ10年前、阪神淡路大地震を経験した者としてお話しします。

 一人の市民として、一個教会の牧師・幼稚園長として、兵庫教区地震対策委員の一人として、さらには日本基督教団の救援センター運営委員、特に教団が阪神・神戸という地域に働きかけたその「地域委員」としての多面な関わりをもちました。
(参考:岩井健作著『地の基震い動く時 − 阪神大震災とキリスト教 −』大阪キリスト教書店1996)

2、「現象」としての地震と「出来事」としての地震は重なり合っている。

2−1 兵庫県南部大地震は現象

 1995年1月17日午前5時46分、マグニチュード7.2、震度7、全壊111,053棟、半壊136,433棟、死者6,425人(内18歳未満の子ども 518人)、ボランティア、支援活動、義援金活動、マスメディアの行動を含めての現象。

2−2 阪神淡路大地震は出来事

 避難所・仮設・復興住宅・居住と福祉・住宅政策・都市政策・街作りとは、孤独死の問題、日本経済の停滞化と重なった地震後の兵庫経済、官と民(例えば、地震に殺され、行政に殺された、等の過激な表現でしか語られ得なかった行政に対する不満・不信)、中央と地方、教団と教区、温度差の問題、ボランティア運動の方向、支援募金活動の受け皿、等々。

 参加、状況への応答、持続の課題を含めての出来事。

3、教団・教区の教会的体質と地震

3−1 主として「山の手」住宅地に立地する神戸・阪神間の教会と激震帯状の「浜側」の底辺居住者地域との歴史的差異。

 浜側は明治以降近代日本重工業発展を担った底辺労働者住宅地。

 山の手は中産階級住宅街。

 教団・教区の教会は歴史的成り立ちから山の手に多い。

 労働者被災者との距離。

 教団・教区教会の自覚的行動はここから生まれる。

 被災隣接地域への私設仮設住宅建設、ボランティア・センターによる仮設居住者訪問、被災こども支援、緊急生活援助資金貸付金活動、お米支援活動、被災「障害」児・者支援活動、各地炊き出し活動など。

3−2 兵庫教区による長田活動センター(現在)の立ち上げ、専従者の配置。

 長田は神戸の被災の集約地、以後、センターは各地の災害支援、中越地震にも活動している。

3−3 兵庫県被災者連絡会(代表・河村宗治郎氏)は住民の要求をよく纏め、行政に対しても持続して活動した。こことの連携をとった。

3−4 「阪神淡路大震災被災教区の震災5年目の宣教に当たっての告白」を兵庫教区は行い、地域への教会の関わりを信仰の事柄として残した。

4、被災教会への募金活動
 全壊15教会。「阪神大震災被災教会教会堂牧師館再建資金募金」3期にわけ4億2千万円。第1次募金(地域)と平行して行われた。

5、地震で顕になった二つの生き方(思想を持つか、持たないか)

① 助け合って生きる生き方。輪を広げる。◯の生き方。民衆の知恵。街(人々のつながり)作り。創意あるボランティア。「地域の復興なくして、教会の復興なし」。

② 秩序の回復・再建が主な生き方。形成と管理が優先。△の生き方。行政主導。戸数の充足。行政の補完としてのボランティア。

6、教会もその内側に◯と△の二つの生き方を抱えている。

6−1 「教会」とは何か
 教会は「神に」招かれた者の「集い」(エクレシア=語源 ek-kareo、呼び出される)。

6−2 「集い」の在り方(共同性)には二つの傾向と特徴がある。
 この二つは、マルコ福音書では繰り返し対比して描かれる(例、10章、マルコは教会の内側でこの二つが引っ張り合っているとの認識を持っていた)。

① 上昇型の集団。△三角型の集団。
 閉ざされた志向(いちばん上になりたい。民を支配。偉い人達が権力を振るっている)。

② 下降型の集団。◯丸型の集団。
 開かれた志向(すべての人の僕になる。仕えるために。自分の命を捧げるために。互いに足を洗う[ヨハネ])。

6−3 イエス自身は◯の方向に人々を促した。
 ・失われた羊(ルカ15:4)
 ・最も小さい者の一人に(マタイ25:34-45)
 ・招かれた客たち(ルカ14:15-20)
 ・よきサマリア人(ルカ10:30-36)
 ・ぶどう園の労働者(マタイ20:1-15)
 ・ラザロと金持ち(ルカ16:19-26)

6−4、我々の教会は、地震を経験して、教会の進むべき◯の方向を鮮明にされた。

 これは恵みの出来事である。命は関係ですから。



講演・午後
不条理の死や貧しさを生きる命

7、現象としての「死」と出来事としての「死」

7−1 不条理の死を生き残った者たちがどう受け止めるか。

 死者の「供養」「追悼」「儀礼」などの「宗教的」意味付与に止まるだけではならない。

 死の意味を現在化する「生き方・考え方」(災害・民族戦争・現代戦での不条理の死が告発している、残された者の「罪責」とその歴史への関わりの決意が促されること)の自覚が必要。
(参考:『群馬地区だより』p.5、社会部主催『平和集会』「原爆の図 丸木美術館」を訪れて、伴朋子さんの文章にある自覚)

7−2 「流れる時間・過去の過去化」で考えられていた思想・文化を「流れない時間・過去の現在化」を思考する思想・文化へと転換していくのは「キリスト教」の働き。

7− 3 聖書が語る聖霊の働き

 ヨハネ福音書14章25節と26節の間には深い断絶がある。

 25節「話されたこれらのこと」は過去。イエスの事跡。いと小さき者への愛、励まし、慰めの出来事。過去の物語。

 26節は、その過去を現在化する力として聖霊が語られる。

 二つのキーワード。「思い起こす(ヒュポムネーセイ、ヒュポミムネスコー)」と「平和を残す(エイレーネー)」。

 聖霊の働きは、現象としては過去になっていくことを、現在の出来事として呼び覚まし、その出来事を平安へと結実せしむるもの。

 地震を過去の現象に止めることなく、今の出来事とする。

 地震の死(それは同時に、現代の不条理の死)を、私たちに代わって負われた死と現在化することが「福音」の働き。

7−4 忘れられないある物語

 私は、1995年12月31日の朝日新聞の天声人語の話が今も心に響く。
「最初の揺れが去った後、幾つもの地区が火災に包まれた。73歳の父親が下半身を瓦礫に挟まれていた。子どもたちが、両手を思い切り引っ張った。炎が迫った。父親は、穏やかに行った。『もう行け。もう行け。』」
 これは出来事としての「死」を示す。

8、碑の意味

 「碑」(石碑、墓碑、句碑、碑文、碑銘、建碑、詩碑)、「事跡を後世に伝えるため、文字・レリ−フを刻んで建てておく石」。原爆記念碑、戦没者記名碑(沖縄)、太平洋戦争・沖縄戦被徴発朝鮮半島出身者ハンの碑(韓国・沖縄)、そして阪神・淡路大震災の記名・記念碑など。

 碑から声を聞く感性と作業の持続。

 「流れる時間」の中での記念碑、碑から、現在化された「流れない時間」の「声」を聞き取ること。

 「生きること」はこの関係を生きること。

9、最後に最近経験した旅のことから

 「生きる」ことは関係を生き、生かされることだという励ましを語って終わりにします。

 7月21日から8月7日、ブラジル各地の「解放の神学」(「貧しい人々」が聖書の解放を信じ、学び、実践している中南米のキリスト教、主としてカトリックの運動)を尋ねる旅を横浜の渡辺英俊牧師とした(『福音と世界』1月号に報告)。

 客観的貧しさと共に、聖書でイエスが語る「貧しいひとたちは幸いである」(ルカ6:20-26)との、意味を教えられました。

9−1 

 現実生活の面からみれば、ブラジルは平均所得が日本の十分の一です(貧富の格差を考慮すると実際多くの人は三十分の一くらいになる)。現在の世界金融資本の標的にされて収奪されている開発途上国です。

 極貧の人々が大都市周辺に形成しているファベイラ(都市スラム)の状況は大変なものです。

9−2 「解放の神学」の実践である聖書基礎共同体の研修会に信徒の指導者100人と共に実際に参加。


 貧しい民衆の解放運動を支えるカトリック教会の聖書研究の指導者は、南山大学出身、イエズス会所属の聖書学者・中ノ瀬重之神父。

 彼は、聖書の神を、◯の神か、△の神か、で読み解いてゆきます。

 凄い迫力でした(マルコに◯・△を適用させて戴いたのは、彼に負う)。

 実際、北部の貧しい地域で、子供の教育や様々の社会的活動支援をしているメソジスト教会及びカトリック教会の働きを視察しました。


 南部の貧しい地方で、カトリック教会の佐々木治夫神父が行っている総合的な地域社会事業「フマニタス慈善協会」の実践を視察しました。

 特に、センテーファ(Sem Terra without land)「土地なき農民」の「土地取得闘争」の支援の実態や土地取得後の農民への農業教育。またハンセン氏病の治療への取り組み、ストリートチルドレンの学童保育、プロポリスによる資金作り等、地味で着実な宣教活動の見学にはほんとうに教えられるものがありました。

 佐々木神父が「貧しい人は幸いだ」という時、そこには「共に生きている関係」が彷彿としていて、イエスの逆説的言説と一体になって言葉が生きていました。

 生きることは「関係」だ。そう実感しました。


命の道を生きる 阪神淡路大震災から10年、新潟県中越地震(2004.10.23 M6.8 最大震度7)から3ヶ月

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