小磯良平の絵皿(1992)

『近代日本と神戸教会』 (神戸教会編、創元社 1992、p.196)
岩井健作執筆原稿

 洋画家・小磯良平(1903-1988)は神戸教会員である。小磯は旧三田藩の旧家貿易商・岸上文吉・小松(共に神戸教会員)の第4子として生まれ、神戸二中、東京美術学校に学び、第7回帝展(1926)では「T嬢の像」で特選を得た。その頃、小磯吉人・英(共に神戸教会員)の養子となる。85歳で他界するまで、卓抜なデッサン力を基に気品と清涼感にあふれる数多くの秀作を生み出した。生涯のテーマ女性像は清楚で典雅、多くの人の心をひきつけた。日本聖書協会口語聖書挿絵32葉には、少年の日々日曜学校で学んだと思われる物語が独特の線で描かれている。

 神戸教会の信仰の流れを三つに考えるとき、第一は男性の系譜。グリーンにはじまる歴代牧師と男性信徒たち。これらは、伝道、事業に貢献した。第二は女性の系譜。タルカットとダッドレーにはじまる女性の系譜。教育、奉仕の分野で活躍した。第三は子供や弱者の系譜。矢野彀(やごろ、神戸真生塾創立者)にはじまり社会事業が担われた。小磯のキリスト教は第二の流れに属する。タルカットは「忍耐、機敏さ、正直、真面目、聡明、克己心」(『書簡』)などを目標に女性たちを教育した。それに感化された神戸教会員女性たちが小磯の周りには多い。前出の実母、養母はもとより、岸上りき(祖母)、小磯ミト(養祖母)、渡辺常(養母の友人)、落合敏子(「T嬢の像」モデル)など。

 洋画の正統を、修練を積んだ技法をもって日本近代画壇に根づかせ、かつ教育した小磯の生き方には匿名化されたピューリタニズムが滲んでいる。それは特に養母・英の生活態度から受け継いだものであろう。モダニズムを呼吸した小磯には、自らを律すること厳しい養母の信仰への抗いはあった。しかし、母の死を記念して、教会に寄贈した作品、絵皿二枚は、聖書のうちで最も美しいイメージ「母子像」と「葡萄」で飾られている。(I)

(岩井健作執筆)


小磯良平と神戸のキリスト教(2014)

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