1987年12月24日(木)午後7時半〜8時半
神戸教会クリスマス燭火讃美礼拝(約530名)
指揮:阿部恩兄、合唱:神戸教会聖歌隊、
奏楽:瀬尾千絵姉、アンサンブル:シュピール•ドーゼ
(牧会29年、神戸教会牧師10年、健作さん54歳)
マルコ 2:12、説教題「ヘロデの知らない道」岩井健作
”そして、夢でヘロデのところに帰るなとのみ告げを受けたので、他の道をとおって自分の国へ帰って行った。”(マタイによる福音書 2:12、口語訳)
みなさん、クリスマスおめでとうございます。
香りも豊かな会堂の樅(もみ)の木は、親子3代にわたり60年余りも毎年続けて、自分の山の木を捧げてくださっている方の捧げ物で、信仰の香りも放っています。
飾り物にはバングラデッシュの婦人たちが作成したジュート(麻)の人形もあり、困難な状況の下、子育てのための自立に取り組む人たちとの交流の徴(しるし)ともなっています。
一番てっぺんの大きな星は、聖書のマタイ福音書のイエス誕生物語の中に出てくる不思議な星を象徴する意味で飾られています。
さて、その星ですが、天文学では紀元前7年の木星(幸運の星)と土星(パレスチナの守護星)が魚(うお)座(世の終わりの徴)での近接であったことが明らかにされていますし、古代の占星術師もそのことは知っていました。
問題は、何に結びつけて解釈したかです。
一方では、ローマ皇帝アウグスト、さらにはその臣下パレスチナの支配者ヘロデ大王に結びつけて、その権力の発展と栄光として受けとめました。
他方、それをナザレのイエスの誕生に結びつけて解釈をしたのがマタイ福音書の物語です。
ユダヤ人にはそれがわからなかったが、東の国の博士たちにまず示された、というのがマタイの主張です。
アウグスト・ヘロデ・権力者・有能な支配者あるいは暴君・その支配を是として生き延びる臣民、といった生き方の筋道は、やっぱり栄えるという、この世の通年の如き考え方があります。
福音書はそれに抗して、いやそれとは別の生き方、つまりそのような人間支配の直接的力(地位・金・能力等)とは別な世界が厳(げん)として存在するのだと宣言します。
だから、幼な子イエスとの出会いを転換点として、東の博士たちは「ヘロデの知らない道」を通って、帰って行ったのでした。
「神」については、熟知するユダヤ人が知らないうちに「夢」(古代人の一般によく知られた、神的啓示の示され方)で、つまり無意識のうちに「神」を知らされたというところは、現代人が心して聴くべき点です。
ヘロデの知らない道、つまり愛・信頼・真実・互いに支配しない人間の共同的関わり方の道が示されていること、ヘロデのやり方がもはや絶対的力を持たないという希望が与えられているというのが、私たちが聞くクリスマスのメッセージです。
神戸に生まれた童話作家・川村昌子さんの『とげとげの山姥』(『日本キリスト教児童文学全集〈別巻 2〉』所収、教文館 1984)という摩耶(まや)山(神戸市中央区、六甲山地)を舞台にした童話を読みました。
力の山姥(やまんば)が愛の山姥に変わっていく心温まる物語です。
その転換点に十字架のキリストが存在するところに、彼女の信仰が自然に出ています。
(1987年12月24日 神戸教会 岩井健作)
1987年 説教・週報・等々
(神戸教会9〜10年目)