ダビデの歌(2010 田中忠雄 ⑮)

2010.9.1、湘南とつかYMCA “やさしく学ぶ聖書の集い”
「洋画家 田中忠雄の聖書絵から聖書を学ぶ ⑮」

(サイト記)上掲画像は「76 ダビデの歌 Song of David, 1982」『特別展 田中忠雄回顧展』神戸市立小磯記念美術館 1998 より、サイト編集者がiPhoneで撮影。許可を得たものではないので、削除する可能性があります。

(明治学院教会牧師 健作さん77歳)

詩編 98編1節−9節

新しい歌を主に向かって歌え。
主は驚くべき御業を成し遂げられた。
右の御手、聖なる御腕によって
 主は救いの御業を果たされた。

主は救いを示し
恵みの御業を諸国の民の目に現し
イスラエルの家に対する
 慈しみとまことを御心に留められた。
地の果てまですべての人は
 わたしたちの神の救いの御業を見た。

全地よ、主に向かって喜びの叫びをあげよ。
歓声をあげ、喜び歌い、ほめ歌え。
琴に合わせてほめ歌え
琴に合わせ、楽の音に合わせて。
ラッパを吹き、角笛を響かせて
王なる主の御前に喜びの叫びをあげよ。

とどろけ、海とそこに満ちるもの
世界とそこに住むものよ。
潮よ、手を打ち鳴らし
山々よ、共に喜び歌え
主を迎えて。

主は来られる、地を裁くために。
主は世界を正しく裁き
諸国の民を公平に裁かれる。

1.「ダビデの歌」は1982年、田中さん79歳の時の作品で、第37回行動美術展で発表された。今は霊南坂教会が所蔵している。

 その霊南坂教会の名物オルガニストには大中寅二氏がいた。島崎藤村作詞・大中寅二作曲「椰子の実」の作曲家といえば知らない人はいないであろう。

 大中さんは半世紀にわたり霊南坂教会でオルガニストと聖歌隊長・指揮者を務めた。

 田中さんも長年、霊南坂教会会員として信仰生活を送った。大中さんとはよき友人であった。大中さんをモデルにした作品は他にもあるという。「ダビデの歌」は、1982年4月19日、86歳で大中さんが他界した時、大中さんの死を悼み、その記念として描いた作品である。

2.「特別展 田中忠雄回顧展」の時の解説で小磯記念美術館の学芸員・廣田生馬氏は

「背後のステンドグラスからやわらかな光がこもれる中、手を高く挙げたダビデを中心に、10名余の人々が声高らかに歌っている光景が描かれています。……ステンドグラスを作品の中に登場させ、画面を聖なる空間にするために効果的に使っています……」(『特別展 田中忠雄回顧展』1998、p.110)

 といっている。

 背景は一見暗い壁のようであるが、注意してみると会衆が微かに描かれている。

3.聖書の詩編には「ダビデの詩」との表題の詩がたくさんある。ダビデはイスラエル王国設立の名君であり、その事跡は旧約聖書の歴史を彩っている。「ダビデの歌」は、いわば讃美歌の起源を表す象徴である。ダビデ自身、竪琴を奏でて神を讃美したと伝えられている。おそらく大中さんも詩編の詩を沢山編曲して聖歌隊で歌ったに違いない。「大中」といえば「ダビデの歌」と言葉が続いて出てきたのであろう。

 隊員たちの顔からは男性合唱が想像される。高く揚げられた指揮者の手に隊員の目が注がれ、力強いハーモニーがほとばしり出てくるような作品である。

4.この絵に直接聖書のテキストが付されているわけではない。この絵にふさわしい神を讚美する詩編といえば、まず詩編の96編、98編を挙げたい。両詩編は「新しい歌を主に向かって歌え」で始まる。礼拝会衆に神讚美をうながす「命令形讚歌」といわれる形を持っている。この歌は「救いを伴なった主ヤハウェの到来とヤハウェによる全世界支配の終末的希望を述べている歌」(注解書)である。

 私も学生時代、K教会(サイト記:京都教会か神戸教会)の聖歌隊で、詩編96編、98編をよく歌った。この詩編を読むと平田甫編曲のメロディーが心に響きわたる。歌の力というものはそういうものだ。

5.詩編は、ヘブル語聖書(旧約聖書)の第3区分の諸書(ケスビーム、文学)の分類の冒頭にある150編からなる宗教詩集である。古いものは起源前1000年頃に及ぶという。この150編は1巻から5巻までに分類され編集されて、今の形になった。つくられた年代の幅も広く、作者も多様で、思想も実に豊かである。信仰者のその時々の心から溢れでた信仰の歌であって、長い時代にわたって多くの人々に深い感銘を与えてきた。

 世界で最もよく読まれる詩編は?、と聞かれたら、誰しもが「詩編23編」と答えるであろう。欧米では葬儀のとき必ずといってよいくらい読まれるからである。

主は羊飼い、わたしには何も欠けることがない。」(新共同訳 詩編23:1)

 これも「賛歌。ダビデの詩」という表題がついている。

 キリスト教会は、詩編を礼拝における神讚美の大事な要素として受け継いできた。今でも教会の礼拝では「交読詩編」という項目があって、会衆と司会者が交互に詩編を朗読している。

 田中さんも詩編には子供の頃から馴染んできたに違いない。この絵は田中さんの明るく力強い信仰を滲ませている絵の一つである。

洋画家・田中忠雄の聖書絵から聖書を学ぶ(2009.12-2010.9)

16.みくにを来たらせ給え