いのちとくらしを考える責任 − 原爆・核・基地の問題を見据えつつ(2009 平和聖日・講演レジュメ)

2009.8.2(日)溝ノ口教会(川崎)平和聖日講演
(最終版ではないため、段落が整理されておらず、編集を加えています)

(明治学院教会牧師 健作さん76歳)

1.「原爆」、この悲惨な事実

1−1.1958年、広島流川教会伝道師に就任。「原爆」の現実に接する。その悲惨さに驚愕。当時のおぼろげな思い。

① 碑文の「過ちは繰り返しません」(雑賀忠義の言葉)の主体はだれか。「我々」だとすれば、自分は何をすべきか。

② あの死に様を記憶すること(原爆資料館、丸木の「原爆の図」、原爆文学)。

③ 被爆者への救援とは何か(後、被爆者救援の視点で清鈴園運動に展開)。

④ 核兵器はあってはならない(後、原水爆禁止運動への参加)。『原爆体験記』(広島市原爆体験記刊行会編、1950年の出版計画が占領軍により差止め[被爆叙述が生々しすぎ反米的]1965年出版、朝日新聞社)は被爆後5年の体験記録。

1−2「広島原爆記念特別養護老人ホーム『清鈴園』建設。

 日本基督教団 第15回総会で決議(戦責告白の具体化)により1971年9月6日、竣工開園(建設委員長・杉原助)。(▶️ 「教会と清鈴園」岩井健作、『働く人』1973/12/7 所載)

 以来38年、被爆者老人介護を諸教会の支援のもと「平和なくして福祉なし」(現園長・猪股誠司氏)の活動持続。

1−3「在韓被爆者渡日治療広島委員会」(会長・河村譲)

 1960年より核禁会議・韓国民団などの働きかけで、渡辺正治、河村虎太郎、金信煥氏ら、研究者・医師・牧師が中心となり、韓国にいる被爆者への医師団の派遣、渡日治療を行う。継続して現在も諸教会からの募金により活動が続けられている(郵便振替。名義「在韓被爆者渡日治療委員会」01340-7-6888、委員渡辺道子さんと連絡あり)。

2.被爆者の運動

1954年、ビキニ水爆実験、第5福竜丸被爆、原水爆禁止世界大会。
1956年、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)結成。
1957年「原子爆弾被害者に医療等に関する法律」。
1968年9月「原子爆弾被害者に対する特別措置に関する法律」(原爆特別措置法)。

 しかし、被爆者要求は一貫して「被爆者援護法」の制定(原爆投下の戦争責任、救済放置の責任、米国への賠償請求権を放棄した責任、国家補償法)を要求(1966)。

 1994年12月、原爆二法を一本化「原爆被爆者に対する援護に関する法律」が成立したが、国家補償は明記されず。現在25万人の被爆者手帳保有者のうち原爆症認定は5千人、一連の原爆症認定訴訟で国は18連敗、原告の全員救済を求めて座り込みなどの運動が続けられている。

3.都市の連合

 国家の枠組みで動けない部分を都市が連合し国際世論を形成する運動。
「平和都市会議」(会長:秋葉忠利 広島市長。1982年、広島・長崎両市が設立)は加盟都市が3,087市(7/25現在「中國新聞」)となる(2002年、2020年までに核兵器廃絶を提唱)。

 オバマ米大統領の4月プラハでの「核兵器の無い世界」演説への期待がある。広島市民の役割は大きい。国内には「日本非核宣言自治体協議会」(会長:田上富久 長崎市長、1,446市、神奈川33市)。他に「平和市長会議」(139自治体)がある。

4.広島は都市として「核廃絶」を訴える力を持つ。

 しかし 2009年夏、田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長が「北朝鮮への先制攻撃が出来る体制を訴え、日本の核武装と憲法の改変を」という趣旨の講演を広島・原爆ドーム近くのメルパルクで計画している。時代に逆行する公然たる世論作りの勢力の行動には警戒を要する。

5.「核」問題

 核問題とは何か。それは「核兵器廃絶」と「脱原発社会」を求める運動だと言ってよい。

5−1.世界の核兵器

① プルトニウム爆弾
② ブースター爆弾
③ 水素爆弾(熱核兵器)
④ 中性子爆弾(放射線強化爆弾、対戦車)
⑤ 地中貫通爆弾
⑥ 劣化ウラン(DU)弾(貫通度が高い、対戦車)微粉末による放射線障害を起こす。イラク戦争で米は2000トン使用。子どもの白血病、肺癌、流産を引き起こしている。

5−2.運搬手段

① 戦略核兵器(大陸間弾道ミサイルICBM,[単一弾道、個別誘導複数目標弾道の二種]、原子力潜水艦[戦略、攻撃、巡航など〕、発射弾道ミサイル)。
② 戦域核兵器(射程距離短いものIRBM、中国、インド、パキスタン、イスラエル)
③ 戦術核兵器(通常兵器と同じように、砲弾、爆弾、魚雷、地雷、空対空、地対空ミサイルなど多種類)。世界の核弾頭総数(米5,535発、ロシア 14,000発.、中国240発、フランス350発、英200発、インド60発、パキスタン60発、イスラエル300発、その他。合計20,745発。(サイト記:出典不明。そもそもリアルタイムの正確な数はわからないと思われる)

5−3.核軍縮へ向けて

① 国際司法裁判所(ICJ)の勧告的意見。1994年の国連決議にもとずく勧告「核兵器による威嚇、使用は武力紛争に関する国際法に違反する。……厳格で効果的な国際管理下で核軍備撤廃にいたる交渉を誠実に進める義務がある」。
② 包括的核実験禁止条約(CTBT)の成立(1994国連総会で採択、米99批准案否決)。
③ 戦略攻撃兵器制限交渉(SALT1-2)、1968-1979 米ソ交渉。結果、削減ではなく増強を認める内容となった。
④ 核不拡散条約(NPT 6条が大事)。
1953年、国連総会提案、1968年可決。1970発効。米・ソ・英・仏・中国を「核保有国」、以外を「非核兵器国」とし核兵器を保有しないことを約束、国際原子力機関(IAEA)の保障措置の受諾を義務づけ「核保有国」は核軍縮に向けて「誠実な交渉を行うことを約束する」としている。開発・製造・貯蔵・配備への規定なし。核の独占・合理化だと批判される。2000年の再検討会議は6条を再確認、 2005年はブッシュ米大統領により進展なし(その後、各種の条約が結ばれているが効果を上げてはいない)。

「核軍縮、中堅国家構想の挑戦 2010に向けて」(梅林宏道:NPO法人ピースデポ代表)によれば、2010年の国際 NGO「中堅国家構想(MPI)」による「6条フォーラム」に期待が掛かるという。

6.脱原発社会

 原子力発電(商業利用)は1951年米国に始まる。高速増殖炉、黒鉛炉、重水炉、軽水炉、と方法が変化した今は、諸国軽水炉になっている。世界で434基。日本に52基(他閉鎖、審査等11基)。(サイト記:出典・詳細不明。日本で稼働中の原発は(2020年8月:資源エネルギー庁)4基、九州電力玄海3・4号機、関西電力大飯4号機と高浜原発4号機。停止中5基)

 総電力の3分の1を占める。危険が知られるようになったのは1970年代。日常的環境に漏れる放射能(温廃水、排気筒)、核暴走(チェルノブイリ)、事故リスクの大きさ、使用済燃料の再処理等の危険(高レベル廃棄物地層処理の危険、中間貯蔵、輸送)、原子力開発の犠牲(放射線障害)、原子力に頼らない社会の可能性(エネルギー利用技術の効率化、エネルギーにおける格差・差別の縮小化)などの課題がある。

7.神奈川教区社会委員会・核問題小委員会の働き

昨年の講演会
「原子力空母の母港化を考える」(呉東正彦さん:弁護士、原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会共同代表)
「命の源“海”と六ヶ所再処理工場を考える」(水口憲哉さん:東京海洋大学名誉教授)

8.運動「山口県・上関(かみのせき)原発」

 建設計画中止を求める全国署名(パンフ参照)

9.「基地」はなぜあるのか

9−1.米軍基地の根拠「日米安全保障条約」(1951年、サンフランシスコ講和条約の日に締結、「極東における平和(前文)」
「アメリカ合衆国はその陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することをゆるされる」6条)。

 米軍基地105箇所(うち沖縄に53箇所。全国 4%の土地に沖縄に基地総面積の75%)。

 東西対立の冷戦下は、対共産圏への前線基地、以後は「米軍再編」により米軍世界戦略の意味をもつ(同盟国の役割強化[自衛隊を組み込んだ編成]、極東の範囲を超えて迅速な対応、数より質的能力、海兵隊はグアム中心[日本資金で移動]、普天間代替としての北部基地[名護、辺野古、高江]、陸軍は第一軍団司令部を座間に移転、以上を条約締結[政権交替後有効])。湾岸戦争、イラク戦争では沖縄から直接出撃。

9−2.加害者性を負う日本(憲法9条2項にも拘らず)

 その他、基地犯罪による被害(特に沖縄、女性被害)。経済的自立阻害。地方自治の破壊。

9−3.教会と基地との関わり

 基地周辺教会は、基地被害・平和の視点からの取り組みがあったが、日本基督教団全体の問題にはならなかった。

 私は、広島(原爆)、呉(軍港)、岩国(米軍基地)、神戸(非核『神戸方式』核兵器積載艦の神戸港入港拒否、市議会決議1975)、及び神奈川の街の教会で宣教・牧会に携わったので、この問題に関わらざるを得なかった。

 神奈川教区は基地自衛隊問題小委員会が市民運動と連携しつつ取り組んでいる。女性委員の働きが目覚ましい。『バスストップから基地ストップの会』、および『うねりの会』など。

まとめ

 原爆・核・基地の問題に取り組んでいて、大きくは「いのち(憲法9条)」と「くらし(憲法25条)」について、深く考えることを養われる。

「平和なくして福祉なし」

「エネルギーの分かち合いなくして平等なし(格差社会の是正)」

「放射能の被害は子々孫々に及ぶ」

「基地を許せば見えない人殺し」など。

 憲法9条は、今世界的・国際的に新たなる文脈に意味を付与されている(2008年 世界憲法会議[幕張])。

 また、新自由主義経済下の金融恐慌で国内問題であった「格差社会」は壁を破って世界的人間破壊へと向かった。「くらし」の問題に国内で歯止めをかける戦いが、世界の民衆の励ましと力になる。運動は民衆を結びつつある。同時に反戦平和も
「反戦イラク帰還兵の会」(IVAWのブオノさん全国スピーキングツアー)、
「冬の兵士」(10月3日、六角橋教会で田保寿一監督講演とDVD上映会)運動
などに注目したい。

「責任」(レスポンス)は応答の意味。だれに応答するのか。神への応答がキリスト者の責任。神はイエスにおいて貧しくされ、弱くされた姿。

 この領域で神は自らを現し給う。

参考文献
『核問題ハンドブック』(和田長久・原水爆禁止日本国民会議、七つ森書館 2005)
『イアブック核軍縮・平和 2008 市民と自治体のために』(NPO法人ピースデポ、高文研 2008)

▶️ 午前中の礼拝説教 三つよりの糸(2009 溝ノ口教会・礼拝説教)

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