『兵庫県大百科事典』と兵庫のキリスト教(1984)

1984年1月10日「基督教世界」掲載
1983年10月1日『兵庫県大百科事典』神戸新聞出版センター

(神戸教会牧師5年、健作さん50歳)

「瀬戸内海から日本海まで。阪神、播磨、但馬、丹波、淡路の<5つの顔>をもつ兵庫県、の総合百科事典として『兵庫県大百科事典』全2巻が神戸新聞創刊85周年記念特別企画の一環として1983年9月に刊行された。項目は1万2千。3千ページ。歴史・風土・自然・文化・政治など32分野にわたる地域百科である。

 14名の編集委員の一人は武藤誠氏(黒川古文化研究所々長、関西学院大学名誉教授)。「考古、建築物、宗教」分野を担当している。同氏は神戸教会員。また「宗教」の項目担当副委員長は笠原芳光氏(京都精華大学々長)、元神戸教会伝道師。ということからもこの事典に身近きを覚えている。宗教の項目745のうち、キリスト教関連は146項目(13%)。執筆者には笠原芳光、山口光朔、佐治孝典、鈴木昭吾、吉野丈夫、小林信雄、小林栄、吉田完次、牛若康夫、宮崎明治、岩井健作(順不同)諸氏がいる。

 他宗教の場合、寺社仏閣などの事跡が多いが、キリスト教の場合は人物の項目が圧倒的に多い。これは人格宗教と言われる信仰の性格をも表している。県出身者はもとより、ここで働いた宣教師らも含められている。思いつくまま幾人かを挙げてみる。明石順三、芦田慶治、阿部行蔵、ヴォーリズ、海老名弾正、織田楢次、岸本英夫、黒崎幸吉、沢山保羅、谷口雅春、辻密太郎、中島重、原田助、矢内原忠雄、渡瀬常吉等々。宗教項目以外に労働運動で賀川豊彦、芸術で小磯良平(原則は故人だが特に評価があることにより)、文学に椎名麟三などがある。人物以外にには、幼きイエズス会、七一雑報、赤心社、教団神戸教会、神戸栄光教会、神戸再度筋教会、摂津三田教会、神戸聖愛教会、聖ミカエル教会等の諸教会、兵庫キリシタン史、賀川記念館(村山盛嗣)などがある。

 去る8月15日、神戸新聞が同事典のPR記事として、同事典出版事務局長・川崎四郎氏の企画で「兵庫県とキリスト教」と題して行った執筆者座談会(笠原芳光、小林信雄、岩井健作)の記事を載せた。その中では、明治初期プロテスタントは、宗教としてだけではなく、文化・思想・道徳などの統合した一種の総合的な精神として入ってきて、文明開化と密接に結びついたこと、そして組合教会のリベラルな思想と信徒の独立自治の精神が、教育・産業・出版などの分野での人物を輩出したことなどが述べられているが、事典にそのことを垣間見ることができる。

 同事典の巻末には、104ページにわたる「兵庫県総合年表」が「全国のできごと」との対比で4分野に分けられて収められている。兵庫県下各個教会の教会史研究や編纂に役立つことと思う。細かいことだが、年表で神戸教会設立が明治7年5月とあるのは、4月の誤りである。再版の機には訂正を促したい。同事典が県下での宣教に資することを願う者の一人である。定価4万9千円。

(神戸教会牧師 岩井健作)

(サイト記)事典の中での健作さん執筆の項目は以下の通り。

 海老名弾正、九鬼隆義、沢茂吉、鈴木清、鈴木浩二、赤心社、高橋健二、日本基督教団神戸教会、本城敬三、森田金蔵、横田栄三郎、渡瀬常吉、摂津三田教会、原田助、小磯良平、米沢尚三、神戸YMCA、頌栄短期大学


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