2010年8月24日 神奈川新聞
2010年8月30日 神奈川新聞
(阪神淡路大震災から15年、東日本大震災の半年前)
(日本基督教団教師、明治学院教会牧師、健作さん77歳)
「震災と銭湯 『安心』与える場所」 明治学院教会牧師 岩井健作
(2010年8月30日 神奈川新聞「意見提言」欄掲載)
私は、1995年1月17日早朝に起こった阪神淡路大震災の折、神戸市中央区花隈町で被災に遭った一人である。現在は鎌倉に在住しているが、あの震災のことは忘れられない。
当時、現場で救援活動に携わり、被災者団体とともに、住む所を失った人たちの「住宅問題」に関しては、大阪教育大学教授(居住学、当時)の岸本幸臣氏らのグループに加わって行政への提言活動にも参加したが、市民の入浴問題を個別課題として考える余裕はなかった。
仮設住宅にはプロパンによる風呂の設備は整っていたが、なぜか復旧した銭湯に殺到したのである。焼け残った長田区の銭湯には行列ができ、一人5分という制限の下での利用状況だった。当時、テレビで報道されたのでご存じの方もおられるかと思うが、自衛隊の入浴支援活動は沈み切っていた人たちに生気を取り戻させたのである。
災害のたびごとに自衛隊の入浴援助活動に頼らざるを得ない現実に、私は行政の盲点を感じざるを得ない。
私たち人間にとって、実は「入浴」という行為は心身の健康の問題であると同時に、人と人が"触れ合う"コミュニティの問題ではないだろうか。私にこのことを気づかせてくれたのが「震災と銭湯」だった。
災害は必ず来る。その時に地域の人間関係の回復の場が「銭湯」なのである。江戸の昔から、地域コミュニティは銭湯を中心にして保たれてきたと言っても過言ではないだろう。高度経済成長時代の内湯の普及で銭湯は激減した。「銭湯」の存続は、それを愛好かつ必要とする住民の熱意と業者の努力に依存している面が多い。現在、高齢社会を迎え、一人暮らし高齢者の激増している中で、各自治体が取り組んでいる「高齢者入浴補助券」事業は高く評価されてよい。
保健科学研究所所長の藤井輝明氏が提唱され、全国で広まりつつある「銭湯を高齢者のデイサービスの場に!」は聞くべき卓見である。
また、銭湯組合が提案している「災害浴場」の実現が待たれるところである。災害浴場とは、行政が設置し、平常は「銭湯」として「組合」が委託運営し、災害時には「災害対策本部」として、情報・救護・相談・浴場・トイレ・休養などの機能を持つセンターである。このような施設が設置されれば、都市機能にもう一つ「安心」を与えることになるだろう。
私がこよなく親しんでやまなかった神戸市中央区の花隈湯は震災で廃業になったが、現在も人口12万の中央区では11の銭湯が街を息づかせている。鎌倉市はその半分の割合だが、震災時のためにも存続を熱望している。
(岩井健作)

「地域支える銭湯文化 震災時の憩いの場」 2010年8月24日 神奈川新聞
入浴サービス取り組みも 横浜で講演会
銭湯をテーマにした講演会が23日、横浜市南区高根町の県公衆浴場業生活衛生同業組合(高橋清隆理事長)会館で開かれた。銭湯が阪神大震災のときに被災者の憩いの場になったことや、福祉入浴サービスに活用されていることなどが報告された。(佐野克之)
同組合と県浴場商業協同組合の主催。単立明治学院教会牧師の岩井健作さん(77)が「震災と銭湯」について講演。神戸教会の牧師だったときに阪神大震災に遭い、救援活動に取り組んだ経験を話した。
被災者が再開したばかりの銭湯に殺到したことを紹介し、「銭湯が被災者を元気づけていた。地域の人々を支える銭湯文化を大事にするべきだ」と話した。
また、保健科学研究所所長で医学博士の藤井輝明さん(53)が、高齢者が介助を受けながら銭湯で入浴サービスを受けられる京都市内での取り組みを説明。「銭湯は欠かすことのできない地域の福祉施設だ」と話した。
