2010.8.3、湘南とつかYMCA “やさしく学ぶ聖書の集い”
「洋画家 田中忠雄の聖書絵から聖書を学ぶ ⑭」
(明治学院教会牧師 健作さん77歳)
出エジプト 記20章1節−17節
1.この作品は1984年、田中さん81歳の時のものである。第39回行動美術展に発表されたものである。広島女学院が所蔵している。ちなみに田中さんは91歳まで制作を続けられた。田中さんのこの時代のものは、背景に青を使い人物を白で描き、特徴ある人物に黄色を用いるといった色調の特徴がある。1982年の「ダビデの歌」、1983年の「裁かれる日」なども基調は似ている。概して穏やかである。
2.『特別展 田中忠雄回顧展』の時の解説を引用しておく。
「人間が生きる上で当然守らなければならないこと、そして、神の仕えるすべについて人々に伝えるよう、モーセは神に託されます。これを十戒と言います。聖書に詳しく書かれていませんが、初期キリスト教美術においては十戒は巻き物の形で表されることが多く、その後、石版に刻まれたものとして表現されるようになります。
この作品では、モーセは石版を示し、人々に十戒を伝えています。そして、その右下には、楽園を追われるアダムとエバが描かれています。
人間の原罪と、人間を救おうとする神の戒めを同時に描いたこの作品は、一つの画面に二つのテーマが盛り込まれているということで、特異な作品です。」(辻智美『特別展 田中忠雄回顧展』p.110)
3.「二つの主題」の一つは、前述の解説のあるように「十戒」である。現在用いられている「新共同訳聖書」は巻末に「用語解説」をつけているので、そこを学びの手掛かりにして下されば幸いである。今日の聖書は箇所は、少し長いが「聖書の学びの集い」でもあるので「十戒」本文を引用した。「十戒」は、このほか旧約聖書の申命記の5章6節−22節にも本文がある。
「二つの主題」のもう一つは「アダムとエバの追放」である。この物語は、旧約聖書創世記3章にある。エバは「善悪を知る」禁断の木の実を蛇の誘惑で取って食べ、アダムにも勧めて、二人は裸であることを知り、神の戒めに背いたので、エデンの園から追放される。これが「原罪」の根拠とされる。
さて、「神の戒め」と「原罪を負う人間」との二つのテーマの提示は、では救いはいずこから来るか、という問いかけでもある。田中さんの絵は、背後にこの問いを宿していると言えないであろうか。
4.この絵では「旧約による二つの主題」が同時に描かれてはいるが、画面で見る限りは、モーセの律法を説く姿と、それを聞く民衆の驚きが中心になっている。
「原罪」を表す「アダムとエバ」は影のように描かれている。だから、田中さんは 「原罪」の告知を言っているのではなくて、「律法」に含まれた、人間の罪の現実をも覆い救う「神の意思」の深さを表現したかったのではないか。
前述の新共同訳「用語解説」の中には、
「十戒は……単に禁令を並べたものではなく、その底には、エジプトからイスラエルの民を導き出した神の選びの愛が流れている。イスラエルは、その愛にこたえてその条項を守ることによって神の民になるのである。預言者は繰り返しこのことを力説し(ホセア4章など)、イエスは山上の説教の中で十戒を含む律法についての新しい解釈を示しておられる(マタイ5章17以下)。……」
とある(日本聖書協会 新共同訳聖書 用語解説 ”十戒(じっかい)”)。
その意味では、二つの主題の間にある問い掛けが、この絵の主題といえるのではないだろうか。
5.絵が問い掛けることは、各人みな異なるが、それを語り合ってみては如何であろうか。
洋画家・田中忠雄の聖書絵から聖書を学ぶ(2009.12-2010.9)
15.ダビデの歌