主を求めよ、そして生きよ – 経済至上主義でよいのか(2013 アモス・聖書の集い)

「現代社会に生きる聖書の言葉」
湘南とつかYMCA ”やさしく学ぶ聖書の集い”

第55回「旧約聖書 アモスの言葉」③
アモス書 5章4節-14節

(牧会55年、単立明治学院教会牧師 8年目、健作さん79歳)

1 、アモス書は今から2800年ほど前の時代の出来事を語っています。北イスラエル王国のヤラベヤム2世は、政治手腕のある王であり、当時の国際情勢では戦争のない時代でした。国は経済的繁栄の空気が漂っていました。しかし、それは表面のこと。現実は不義不正を行う支配者の横暴は目に余るものがありました(2:6-8)。特に宗教は、その支配者の権力と結び付いて、繁栄を祈る国家の祭儀になっていました。神の託宣を語ったアモスは5章21節以下では「わたしはお前たちの祭りを憎み、退ける。…祭りの献げものも香りも喜ばない…騒がしい歌をわたしから遠ざけよ」と言っています。本来、イスラエルの祭りはレビ記(1-7章)に規定があるように、神との関係で穀物などの献げものが、悔い改め、感謝、祈願、執り成しを表現するものでした。ところが、その時代には宗教が変質して、生産性の向上を祈る場になっていました。人々は動員されて、ベテル、ギルガル、ベエルシバの国家の祭壇で、王室の楽隊が参加したのです。それを批判するものは権力に脅されました。「賢いものは沈黙する」(5:13)となります。こういう時代に「祭り」に「否」を言うことは大変でした。

2 、アモスはテコアの牧人(小家畜飼育)でした。エルサレムから南に15キロの寒村の出身です。彼が主(ヤハウエ)の召命(Calling)を受けて、弱者の抑圧のうえに安住している支配階級に、その国の滅亡の預言を語るのです。ここでは「召命」という預言書にとって、大変重要な概念がでてきます。ここはちょっと宿題にしておきます。預言書を学んでこのことが分かれば(自分で体得出来れば)、聖書を体で読んだことになるでしょう。

3 、祭りとは何か。民族学では「ハレ」の日です。日常の労働「ケ」の日の緊張を緩められ、民族が共同の根底にある繋がりを分かちあう日です。「貧しいものを踏み付けたままの祭り」は祭りではありません。日常の再創造が祭りです。新藤兼人監督の最後の傑作映画「一枚のハガキ」の文面は「今日はお祭りですがあなたがいらっしゃらないので何の風情もありません。友子」です。戦場にいる夫へのハガキです。夫婦愛を語ってもいますが、祭りが祭りにならない戦争への徹底的批判です。風情は日常性の回復なのですが、「ハレ」も「ケ」もみんな戦争で奪われてしまっているのです。監督も戦争が奪った日常性を回復する映画であることを語っています。

4、アモスは4節で「わたしを求めよ、そして生きよ」と語り、24節「正義を洪水のように、恵みの業を大河のように、尽きる事なく流れさせよ」とかの有名な言葉を語ります。「主を求めよ」とは内面の変革です。「正義を…流れさせよ」とは内面の変革を、仲間に伝え、それぞれが「主をもとめ…生きる」ことができる方向へと社会や国家を変革して行こうという呼び掛けです。一人一人の主体的生き方とそれを促して行く社会の在り方の変革とは、二つの出来事ではなくて、事柄の表裏です。個人の主体を問うことと、社会の在り方を問うことは切り離せません。個人の救いだけを求める宗教は、いつの間にか、支配者や国家の、支配体制に利用されてしまいます。

5 、近代の宗教がその様な役割を果たしてきたことを深く反省することがアモス書を読むことに繋がります。1970年代日本経済の高度成長期「万国博覧会」が大阪で開かれました。万博反対闘争が日本の青年・学生たちで闘われました。「東京神学大学」でも学生たちが、個人的救いをのみ求めるキリスト教の神学に問題提起をして、闘争をして、最後は「教授会」が機動隊導入をして学園からそれらの学生たちを追放(退学)させてしまいました。その問題提起はいまでも生きています。また、近代個人主義を補完するキリスト教も今もって盛んです。アモス書を学ぶことは、よほど本気でないと学べません。日本は今もってますます経済至上主義の道を歩んでいます。経済評論家•内橋克人さんが「円安」で潤うのは結局、大会社、資本を持てる者、と昨日も警鐘を叩いていました。


4 まことに、主はイスラエルの家にこう言われる。
 わたしを求めよ、そして生きよ。
5 しかし、ベテルに助けを求めるな
 ギルガルに行くな
 ベエル・シェバに赴くな。
 ギルガルは必ず捕らえ移され
 ベテルは無に帰するから。
6 主を求めよ、そして生きよ。
 さもないと主は火のように
 ヨセフの家に襲いかかり
 火が燃え盛っても
 ベテルのためにその火を消す者はない。
7 裁きを苦よもぎに変え
 正しいことを地に投げ捨てる者よ。
8 すばるとオリオンを造り
 闇を朝に変え 
 昼を暗い夜にし
 海の水を呼び集めて地の面に注がれる方。
 その御名は主。
9 主が突如として砦に破滅をもたらされると
 その堅固な守りは破滅する。
10 彼らは町の門で訴えを公平に扱う者を憎み
 真実を語る者を嫌う。
11 お前たちは弱い者を踏みつけ
 彼らから穀物の貢納を取り立てるゆえ
 切り石の家を建てても
 そこに住むことはできない。
 見事なぶどう畑を作っても
 その酒を飲むことはできない。
12 お前たちの咎がどれほど多いか
 その罪がどれほど重いか、わたしは知っている。
 お前たちは正しい者に敵対し、賄賂を取り
 町の門で貧しい者の訴えを退けている。
13 それゆえ、知恵ある者はこの時代に沈黙する。
 まことに、これは悪い時代だ。
14 善を求めよ、悪を求めるな
 お前たちが生きることができるために。
 そうすれば、お前たちが言うように
 万軍の神なる主は
 お前たちと共にいてくださるだろう。

(アモス書 5章4節-14節、新共同訳)

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